目標達成のツール③ -期限とルート- (全9回)

 

 

私はよく選手と長期的目標について話し合います。
話し合いの場はミーティング形式であったり個別面談であったり、そのスタイルは一つに限られていません。

そこで例えば(ユース世代の選手にしばしばある目標ですが)「将来プロサッカー選手になりたい」「世代別代表に選ばれたい」など長期的目標が出たとき、必ず聞いているのが「いつまでにか」ということです。

50歳を超えて未だプロサッカー選手として活躍しているキングカズは特別な例ですが、一般的にはプロサッカーの夢をあきらめてそれ以外の道を歩み始める平均的な年齢が22歳前後だとしても、私の友人には25歳で初めてプロ契約を交わした者もいます。

また、こちらはバレエダンサーの友人ですが、それまで一度もどのオーディションにも受からなかった彼女が、やはりこちらも25歳で初めてプロ契約を、それも海外の超名門バレエ団と交わしたという例も知っています。

この期限に関して「いつまでにプロになりたいの?」や「どの世代カテゴリーの代表に選ばれたいの?」と尋ねるとたいていの選手はここで口ごもります。特に若ければ若いほどこの傾向にあり、大学生くらいの選手だときちんと期限を設けていることも多いです。

ところで「夢」という言葉は上手くできていると私は感心しているのですが、「将来の夢」という意味合いにおいての夢も寝ているときに見る夢も同じ単語を使います。スペルも発音も一緒です。

これは日本語のみならず英語のDreamにも当てはまりますし、ポルトガル語でもスペイン語でもこの二つは同じ単語になります。ポルトガル語とスペイン語でも同じということは、確かめていないので推測ではありますが、多くのローマン系言語もきっと同じ単語が使われているのではないでしょうか。

この二つを同じ単語で扱っているなんて冗談じゃない、という旨のことを訴えている詩人を私は十代の頃に知り共感しましたが、今の私はむしろ希望や願望という意味で語られていようが所詮「夢」というものは「空想」や「想像」と似ていて、実際には起きないもの、つまり寝ているときに見る「夢」と大差ないということに気づいています。

それではどのようにしてこの「夢」を叶えるか、あるいは教え子に叶えさせるかというと、この「夢」を「プロジェクト」、「計画」、「プラン」、「スケジュール」、「予定」といったものに変更する必要があります。

「プロジェクト」、「計画」辺りはまだまだ不確実な要素が含まれたイメージがあるでしょうか。「スケジュール」、「予定」になってくるとバイトのシフトくらいの確実さを感じ取れます。言語感というものは偉大です。たった一つ単語を変えるだけでその対象(夢あるいは予定など)に対する行動が変わります。

私は間を取って、これをよくデート「プラン」に例えて教え子に話します。

「今週の日曜、リーグ戦がなくなって完全にオフになったとしよう。彼女とどこかに遊びに行くチャンスだ。ケン(仮名)、どこに行きたい?」
「あ、すみません、俺、彼女いないです(笑)」
「(笑)」
初っ端から腰を折られるのはあるあるです。すみません、蛇足でした。

「じゃあ仮に彼女ができたとして、今まだ彼女できたての楽しい時期だ。てことは初デートだ。どこに行きたい?」
「えー、えーと、じゃあ…ディズニーランド」
ここら辺は地域柄でしょう。

「よし、ケン、場所は決まった。じゃあ次に何を決める?」
「んー、着てく服?」
「(笑)おお、さっそく服が決まったか。他に大事なことない?」
「園内マップ的なのをネットで調べて、どの順番で周るか決めたりとか?」
「いいねえ、てことはディズニーランドンに行くことじゃなくて、中で楽しむことが目的なわけだな」
「そりゃあ、まあ…」

少しずつ彼の頭の中でイメージが膨らんできたところでもう少し具体的なポイントも尋ねてみます。

「とてもいい。とてもいいんだけど、ディズニーランドに着くまでのことでやっておきたいこと、決めておきたいこと、準備したいことはない?」
「ん?着くまでのこと?…あ、待ち合わせ時間!」

ここまで来たら頭のいい選手は私が何を言いたいのか気づき始めています。

「じゃあ、待ち合わせの時間が決まったら何を調べる?」
「乗換案内」
「だよね。俺も電車移動のときは必ず調べる。車のときも別のアプリだけどやはりルートと所要時間を前もって調べる。これ、必須だよね」

個別面談形式で話しているときもミーティング形式で話しているときもここでは全員が頷きます。

「なのに何でケンはプロサッカー選手になるための『待ち合わせの時間』が無いの?時間が無かったら『ルート』も調べられないよ」

そしてここで「夢」から「プロジェクト/ 計画/スケジュール/予定」まで落とし込む重要性を説くわけです。

プロサッカー選手になるための期限を設けていないということは、デートにおける待ち合わせ時間を決めていないということに当てはまります。
つまり「そのうち一緒に行こうね」の「そのうち」が永遠にやってこないのと同じで、期限の決めていない「いつかプロになりたい」の「いつか」は永遠にやってきません。

さらには待ち合わせ時間(期限)を設けていてもルートを、つまり「そこ(プロサッカー選手になること)」への到達のし方を決めずにやみくもに努力する(したつもりになる)ということは、ディズニーランドに向かって勘を頼りにやみくもに電車に飛び乗るようなギャンブルをしているようなものです。
時間内に間に合わないどころか、見当違いの方向へ、時には逆方向へ行ってしまう可能性があります。

例えば間違ったフォームでの練習、ストレッチ、マッサージ、睡眠、食事の摂り方等々が非効率な身体の動かし方の定着や怪我しやすい身体にしてしまうなどの可能性です。
努力量は足りているのに下手になっていく、怪我しやすくなっていくこの現象を私は「『下手』が強くなる」、「『下手』が固まる」と表現しています。

そしてここからが問題ですが「じゃあ、正しい努力のし方(質)」は何なの?」と聞かれたときの答えを実は誰も持っていない、という当たり前のことを多くの人が整理できていません。

ここが、それに従えばほぼ確実に目的地に目標時間内に到着できる「乗換案内」との違いで、これは個々人で作り上げるしかありません。

もちろん、成功例として参考になるものはたくさんあります。
ありますが、例えば現役のプロサッカー選手や元プロなどの経験談が必ずしも自分に当てはまるものではありません。

またプロサッカー選手を数多く輩出しているクラブの指導者がプロサッカー選手の育て方を知っているわけでもありません。
そのクラブが教え子全員をプロサッカー選手にしているわけでもない限り、つまりプロサッカー選手になりたかったのになれなかった選手が一人でもいる以上、全体を網羅できる、全員に当てはまる指導法は存在しないということを意味しています。

私自身の小さな経験から言ってもかつて所属したチームからプロ選手が排出されたりプロチームからのオファーがあったりしたことはありますが、その選手たちに対して何か他と差別化するような特別な指導をしたわけではありません。

私はよくプロサッカー選手を目指す教え子に
「きみをプロサッカー選手に育てた指導者は今のところ一人もいない」
という当たり前のことを言って諭します。

これは技術的なアドバイスを求めてくる個々の選手に対する態度も同じです。
例えばフランクでの攻防において相手を抜き去るドリブルのフェイント例など超局所的なアドバイスを求められることもありますが、私自身は現役時代に重宝してヘビーローテーションで使用していた技はあるものの、身長、体重、身体能力も異なるその選手に、解剖学や心理学のエキスパートでもない私は、その技が彼に合っているとは断言できません。

つまりこの超ミクロな観点の「フェイント」も、マクロな観点で観た目標達成のための行動計画(正しい努力のし方)も、他人の参考はあっても他人の真似や比較では“これ”といったものを自分の財産にすることができないということです。

ここでほぼ答えが出ましたが、計画表にしろ予定表にしろ自分のやり方(努力のし方)を確立するために、やみくもにやるのも駄目、他人の真似も駄目となると、答えは一つ、自分との比較が重要になってきます。比較検証です。

( PDS/プラン・ドゥー・シーなどに当たります。私はPDCAが好きではなりません。Checkは次のDoのためのSeeとPlanに当てはまり、Actionは次のDoであるべきです。限られた時間の中で結果を出すにはスピード感が大事です。)

それじゃあ最初の一回目はやっぱり他人の真似かやみくも?これで検証と変更を繰り返すには非効率じゃない?と思うところですが、この考えは半分正解です。

成功者の前例を参考にすることは大いに結構ですが、おそらく世に出回っている全ての成功者のアドバイスを取り入れていたら一日が48時間あっても足りません。
これは自分のアイディアだけで勝負する場合も同様で、ほとんどの人間にとってやりたいことを全て一日のスケジュールに詰め込むとしたら、食事と睡眠を0にしてなお時間が足りない状況に陥るはずです。

というわけで自分自身の思考の分解、類別、整理を、あるいは行動の仕分けをする必要が出てきます。
すごく観念的に聞こえますが、座禅や瞑想での「無」の境地の到達のための「まずは数を数えろ」、「呼吸に意識を向けろ」のようなガイドがあるように、この分解、類別、整理、仕分けにも噛み砕いた手順があります。(後述します)

そしてそれを基に中長期計画表(予定表)や一日単位のチェック表などを作成するわけですが、当然そこがゴールではありません。

どういうわけだか自分で決めたことをきちんと遂行できる日とできない日が存在すること分かります。
当たり前と言えば当たり前のことです。
が、私は全ての現象に原因と対応策を見つけておかないと気が済まない性格です。

(つづく)

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