図11-1
クロスの守備対応には「クロスを上げさせない」で完結すればいいのですが、90分を通してそんなに楽な試合になる可能性は低く、クロスを上げさせてしまった後の対応の練習が必要なら、想像すらしたくない、縦を突破(ペネトレーション)された後の水際の対応も準備しなくてはいけません。
突破のされ方や中の人数や状況などのパターンを上げたらキリがないので、ここでは縦突破の後の主にプルバックの対応について、一番分が悪い、ゴールを決められて当たり前、という状況でほんの少しでもその失点の確率を下げるために何が出来るかを説明したいと思います。
図11-1は「専門家のサッカー解説書 Foundation」で例に挙げたところと似ているのですが、左FBが右WGに個人技やコンビネーションプレーなどでの縦突破を許してしまった状況です。
最初の段階で左FBと左CBの距離が空きすぎているという状況はよくあります。
抜かれてしまった左FBがそのまま右WGを猛チェイスして少しでもプレッシャーをかけようとしています。
左CBのカバーが確認できた時点で左FBは右AMへのパスコースのスクリーン(プルバック対応)に切り替える方法もありますが、ここではそれすらできない状況という文脈で話を進めていきます。
左CBは通常の守備陣フォーメーションから緊急用のフォーメーションに変更する合図「カバー!」を出して右CBと右FBのスライド&スクリーン(&ダウン)のトリガー(引き金)を引きます。
「OK!」ではよろしくない理由は図8-1で説明したとおりです。
「OK!」以外の合図だったら「スライド!」でも「ずれろ!」でも何でもいいですがチーム共通の単語が必要です。
そしてゴールライン側にはボールを通させないように右WGとの距離を詰めます。
訓練されていないチームにありがちなのが「カバー!」の合図もなしに、あるいは合図は出したものの中の状況が整っていないのに左CBが右WGの対処に行き、ゴール前がディスオーガナイズドな状況に陥ることです。
とはいえこの場合自分のタイミングで右WGの対処にスライドした左CBに問題があるかどうかは検証の必要があります。中の選手たち(図の場合右CBと右FB)の反応の遅さが原因の時もあります。
緊急事態に少しでも早くボールホルダーにアプローチしてわずか1メートルでも中への侵入を防ぐのは、あって然るべきです。
問題はゴール(=場所が変わらないもの)を守ることが最大の目標である以上、緊急事態には人よりも場所を優先させなくてはいけないということです。
これを少しでも解消させるのに右CBなど内側の選手にトリガーを引かせるのもありです。
「(右WGまで)出ろ!/出せ!」がそれです。
最終的には訓練を何度も重ねたうえで「相手のペネトレーションを認知した瞬間に全員が瞬時に移動する」のが理想ですが、そもそものそれぞれの選手のスタート位置が違う場合など、やはりファーストカバー(左CB)が我慢して右WGを中に引き込まなくてはいけない(待たなくてはいけない)ときもあります。
もう一つ訓練されていないチームに起こりがちなミスがファーストカバーの左CBが右WGまでの距離を最短距離で詰めることだけにとらわれてボールをゴールライン側に通させてしまうことです。
ここでのファーストカバーの選手の優先事項は間合いを詰めて侵入を少しでも防ぐことではなくボールをゴールライン側に通させないことです。
が、これもスキルの高い選手ほど「(距離を詰めることとゴールライン側のスクリーンの)両立」を求めがち、そして失敗しがちな局面なので指導、精査には注意が必要です。
ちなみにレベルの高いリーグでの個人戦術の応用として、ゴールライン側をスクリーンした(プルバック側を空けた)DFが相手選手のリリースの瞬間に誘ったプルバック側にクイックで反応する、なんていうのもあります。プロの試合でよく観られる局面で、個人の駆け引きは観戦の楽しいところの一つであります。
話を戻しますがファーストカバーの左CBが適切なポジションに立てたら右CBは左CBがゴールライン側をスクリーンしていることを認識したうえで1~2メートルラインを上げます。
同様に右FBも右CBがスクリーンしている高さに被らないように1~2メートルラインを上げます。
図11-2
守備の優先順位を考えるならゴールに近い左WGのマークへとダウンするのが鉄則のように思えますが、ボールに近い右AMがフリーでプルバックを待ち構えている状況です。
同様にCFもいます。
この「中2v3」の状況で少しでも失点の確率を下げるためにはプルバックのアプローチ(プレス)のためのたった1~2メートルのラインアップが鍵を握るわけです。
それでは逆に左WGへの角度がスクリーン出来ているなら右AMとCFにもっと近づいては駄目なのかという疑問が出てきますが、これはよく見る失点パターンを引き合いに出しながら説明したいと思います。
※「専門家のサッカー解説書 クロスに対する守備 ②」より抜粋