場面の切り取り方によって見えてくるもの⑥ (全6回)

 

 

図27は後ろから出されたボールが移動している最中でも(右AMのスキル次第では)ボールが収まってからでもいいのですが、右WM左FBの視界から消えしだい彼らの三角形のゾーンに侵入します。

図27

左WMができるのはプレスバックくらいで、ボールを受けた右WMは、場合によってはシュートが、あるいはバックフットになる可能性は高いものの先のほどのよりは中央寄りの位置から、よりは中央寄りであるうえに深い位置から次のパスを出せます。

そして左FB左WM二人ともきちんと自分たちの担当ゾーンをケアした場合に備えて右FBも裏を狙いに行きます。というよりむしろこちらの方が優先したいプレーで、左FB左WM右AMに意識を取られている間にゆっくりと彼らの視野(または意識)の外に消えるように移動し、右WMがトリガーを引いて中にスプリントした瞬間右FBも高い位置を取ります。

そして右AM右WMにバックパスをするフェイクなどで、ボールロストすることなくもう1タッチ分でも時間を稼ぐことができれば右FBディフェンスラインに並ぶような高い位置を取ることができ、次の右AMからのパスを幅も深さも申し分ない場所でボールを受けることが可能になります。(図28)

図28

 

さて、ここまでの説明を終えたところで話を少し戻しましょう。

方向の優位性について少し触れたときに「選手選考や戦術採択にも『方向』の考慮が必要」と述べました。具体的にはどういうことでしょう。

ここまで裏に抜けようとするインサイドの選手(今回は右AM)が内側に守備選手を背負いながら展開するプレーの具体例をいくつか出しましたが、そもそも受け手がボールを受けるために向かった方向と出し手から出されたボールが向かった方向について、それぞれに明確な違いがあることを整理しておきたいところです。

そしてこの方向を“内外”でカテゴライズしてものが図29になります。

図29

まずは守備側の選手に関してですが、AMに裏を取られたFBが内側に回るという内外の入れ替えも含めて、ボールがどこから来ようとも守備側は常に内側から外側にアプローチする、あるいは内側に立とうとします。

攻撃側の選手が最終的に向かう方向が内側である以上当然のことです。

この当たり前の条件のもと、攻撃側はパスがディフェンスラインを超えた後のゴール方向への侵入のしやすさを考えなくてはいけません。

が内側に向かっている分に比べてボールを受けた後のプレーがしやすいのは簡単に理解できますが、このプレー難易度の違いにはプレスを受けているときだけでなく守備側の寄せが遅れていてプレッシャーが不十分、だがボールスピードが出ているのでセンターにボールを送るにはダイレクトで出さないとゴールラインを割ってしまう、といった状況なども含まれます。

内側に向かっているとそうでないとでは腰をひねらなくてはいけない角度に違いがある、つまりここでも難易度に違いがあるということです。

もしのような角度で受けたボールが、スピードが出ているせいでダイレクトでプルバックはおろかニアにもボールを送れないとなると、一旦外側にトラップをして収めざるを得ず相手に戻る時間を与えてしまうことになります。

また内外の走行方向は同じでもボールの進行方向の違いも考えたいところです。

例えばにボールをトラップした後のプレーのしやすさに大きな違いは無くとも、自分の走行方向とボールの進行方向の角度が小さい方()はそうでない方()に比べてボールを受けるスキルそのものをより求められます。

また出し手のポジションがもっと高くてグラウンダーのボールを通せたときなど、ダイレクトでセンターにボールを送りたい状況もありますが、その場合この角度の小ささのせいでキックの種類によってはやはり高い技術を要求されることになります。

そしてゴール方向への侵入よりもまずはボールを失わないこと(ポゼッション)を優先するとして、FBのポジショニングなどによってはを積極的に採択したいときも、ファーストタッチの向かいやすい方向≒守備選手がプレスをかけやすい方向を同様に考慮しなくてはいけません。

ボールをキープする場所の幅(内外)や高さに違いが出やすいということです。

これは縦反転(は右回り、は左回り)で振り向いてゴール方向に向くときもその難易度は異なります。

そして受け手のプレーのしやすさとは別に、当然パスの通しやすさも考慮したいところですが、これらゴール方向への侵入のしやすさや、ボールを受けた後のプレーのしやすさは、そのパスの通しやすさに比例しないのはもちろんのこと、反比例するわけでもありません。

自チーム相手チームの特徴によっても異なりますが、一般論で言ってもきれいに反比例することはないことでしょう。

そして今出た「特徴」に関してですが、チームとしてどのシステムを基本の輪郭として採択するかは選手個人の特徴を考慮しなくてはいけないところです。

これには自チームの選手だけでなく相手チームの選手も含まれます。

例えば鋭角に切り返すセンタリングスキルや相手のプレスを背中に受けながらのプレースキルが思わしくない選手AMCFに起用するなら、内から外へ裏抜けするプレー()の採択は躊躇したくなりますが、一方でFBがやたらとWMに食いつく、さらにはワイドに引き出されたCBの無力化(敏捷性など身体能力の問題も含めFBとしての働きが出来ず、横を向かされたときやフランクでのに弱い等々)が起こりやすいチームを相手にするなら、やはりの採択は魅力的に映ります。

そしてこのような条件のときにだけ当てはまることではないのですが、ボールを受けた後のグループ戦術を選ぶにあたって、ここでもお互いの選手に特定のプレーの得手不得手があるので、それぞれの長短所を考慮したいところであります。

特に短所どうしがマッチアップするときは上記のようにその後のプレーオプションの準備が必要ですが、これは長所どうしや「自分短所‐相手長所」のマッチアップでも同じことが言えます。

とはいえ、グループで前もって準備して個人のウィークポイントを解決する、というのは言い換えれば苦手なプレーをやらずに(やらせずに)知恵で解決する、ということになります。

全てのプレーに選択や決断が求められますので知恵を使うことそのものは肯定できることですが、例えば先ほどの例に挙げた状況、AMが上手に裏抜けしてCBが追い付いていない、センタリンクできる、というときに、鋭角に切り返すキックができないので常に後ろと外のサポートが」必要、そしてそこへいったんパスを経由してから次のプレーを展開する、という暗黙の了解ができてしまうと、このAMはそのプレー(鋭角な切り返しなど)に関しての成長が見られなくなってしまう恐れがあります。

試合中の状況改善や試合前の人選、戦術採択に関してはこれでいいものの、日々の練習において戦術が個人の苦手を隠す甘やかしになるのか、あるいはあるべきプレーモデルを示したうえで戦術が個人スキルの向上を促す役割をも果たしているかの考慮は、指導をするうえで私も特に意識しているところであります。

戦術、技術、体力など各要素を複合的に同時に行うトレーニングの重要性が最近では当たり前のように説かれていますが、もともと日本の優秀な指導者たちは言葉こそ違えど、あるいは定義化、言語化こそしてこなかったといえど、その類のトレーニングを何年も前から行ってきました。

が、とはいえクラブの特色やピリオダイズされた時期によっては、複合されている中身のそれぞれの比重が異なります。

クラブの信条、シーズン、週、一日の限られた時間の中で何を重要視してトレーニングの要素を選択するのかが大事だということです。

 

さて、長いこと「場面の切り取り方によって見えてくるもの」について話してきました。

「観方によって見えてくるもの」とでも言えましょうか。

この中からあなたがたった一つでも知らなかったこと、あるいは知ってはいたけど言語化、定義化していなかったことを見つけることができたり、それのおかげで頭の中が少しでも整理できたなら嬉しいです。

長期にわたる指導者講習をいくつか受けた私にとって、本当に意味のあるレクチャーはわずか数秒で語られたアドバイスなどであったりもしますが、その“意味あるレクチャー”の一つ、場面を切り取る能力そのものを上げる方法論などについてはまたいずれ別の機会に説明したいと思います。

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