首と肩の角度

 

図7-1

まず大前提としてDF全員自分マークのボールサイドをきちんと取れているという条件で話を進めます。

図7-1は右FBがアーリー気味(ベッカム)でボールを中央に送れる状況を表しています。

左FB左CBの間を埋めるべく左CMがすでにディフェンスラインに入っていて、左AMもラインに侵入している状況です。

ここでのポイントは右FBGKの肩の角度と、左CMのポジショニングです。

先ず肩の角度の説明ですが、大外にいる右FBは逆サイドの対応を少しでも早めるために、あるいはその準備が出来ていることを相手に見せて大外への配給を躊躇させるために、首(目線)はパサーに向けたまま肩(体)を開きます。

図ではわかりやすく体の角度がゴールラインと平行になるくらいまで少し大げさに開いていますが、実際にここまで開くのはボールがもっとセンター寄りかハーフウェイライン寄りか、首と肩の角度の差異がそれほど出ない時で、実際のコーチングでは「ボールに素直に体を向けたところから〇度外側に開くこと」と設定する方がいいでしょう。

イングランドでは「Check your shoulder!」と言うと、背後(外側)から裏を狙っている選手に注意しろという意味になり、同時に体を開かせる合図になります。

指導者によっては一つ内側の選手(図の場合だと右CB)や、あるいは全選手に同様のプレーを求めることもあります。

この体の角度を求められるのはGKも同様でFB以上にその重要性は高まります。

グラウンダーも含めたニアの処理だけでなくバックポスト側(ファー)の、主にハイボールの処理を求められるからです。

もちろんバックポストに意識も体の準備も行き過ぎたせいでニアにぶち込まれる、などは本末転倒ですが、このバックポストのハイボールに出られるかどうかはGKのレベルを計ることが出来るポイントでもあります。

私が日本のU18世代を指導していたころ同僚になったGKコーチにこのポイントについて話をすると

「フィールドのコーチにその部分を指摘されたのは初めて」

とコメントされました。

その当時私たちが指導していたチームも含めて日本ではサッカー激戦区と評される県の1部リーグや全国大会出場チームなどでも仕事をしてきたGKコーチでしたが、その彼がそうコメントしたということは、逆に言えばGKコーチがスタッフにいないチームと対戦するときにはここがアドバンテージになる可能性があります。

もちろんもしあなたが指導しているチームのスタッフが足りず、フィールドのコーチもGKコーチも兼任している状況ならこの指導が必要になります。

図7-2

さて、肩の角度の話が出たのでついでにボールに近いサイドの選手の角度にも触れておきましょう。

図7-2は右FB右WGにボールを送れる状況を表しています。

左FBの目線はボールホルダーの右FBに送り、体は担当マークの右WGに向いています。

先ほどの大外の選手の首と肩の向きと同じ理屈です。

こうしておけば外側(右WG①)に出されたボールにはそのまま素早く対処が出来ます。

仮に右FBの目線や声などで守備ベクトル(詳しくは「専門家のサッカー解説書 GK、DFからのプレーをコーチする①」、「同②」参照)を操作されて左FBの背中側(右WG②)を通されたとしても左CMが対処できます。

また、外反転で一度ボールから目を切らせる(ボールを視野から外す)とはいえ、右FBがボールをリリースする瞬間と右WGが走り出した瞬間を角度的に同一視野で両方を捉えられる左FBが、右WGを内側には行かせないように体を入れるか、最低限並走することなら可能です。

そのことを考えると右WG左CMより先にボールを触れることはありません。というより触れさせてはいけません

そもそもパスを通すことさえ難しく、たいていは左CMにインターセプトをされるか球足が強すぎてGKまで届いてしまうか、あるいはゴールラインを割ってしまうかになります。

プレスが十分でないときにチップキックなどで柔らかいボールを左FBのやや背中側、左CMのギリギリ届かないところに通す優秀なパサーももちろんいますが、左CMの届かない範疇ということは逆に言えば左FBがその向きのままターン(外反転)してボールを追って間に合わせなくてはいけないスペースということです。

これは右AMが図の場所ではなくディフェンスラインに最初からいたとしても同じです。(というよりもし右AMがディフェンスラインにいたら、そのボールは右AMが処理することになってそこで左CMとのマッチアップが始まる可能性が高くなります)

図7-3

そして、これがよく見られる(選手だけでなく指導者/分析者側の)ミスですが、ボールが内側にあり、かつパサーが間(図の場合左FB左CMの間)を通せてしまう状態にもかかわらず体を開かせてしまうパターンです。(図7-3)

図では守備側が有利になるように図7-2とディフェンスラインの人数を変えないまま、もう一人右AMへの守備を置いています(+1の選手)。ここを担当するのはFWでももう一人のCMFでもどちらでも構いません。

その選手右AMへのプレスの角度、強度の条件が外への誘導に満たされていないのに図のように左FBが外に体を開かせると背中側を通される危険性があり、通された場合(右WG②)、左CMは角度的にここには追い付けません。左FBも先ほど(図7-2の状況)とは違い、パサーになる右AMレシーバーになる右WGを同時には見られないので、パスが渡った瞬間には裏も内側も取られていることになる可能性が極めて高くなります。

そうなると、当然GKDFの間に早いグラウンダーのボールを出されてしまう可能性も高くなるということです。

よって左FBは体を外に向けるなら左CMとの間を詰めてそこをケアしていることを右AMに見せたうえで(実際にゲート間にボールが来たらきちんとブロックできる状態にしたうえで)、外にボールが出てから詰めに行くという基本が求められます。

というわけで「ゲートを通させてしまう恐れのある状況ではゲートをケアせざるを得なく、故にフランクの選手に自由にボールを受けさせてしまう」、反対に「外を重視してケアをすれば中を突かれる」という状態になるのですが、プロでも、いや、身体能力に自信のあるプロだからこそ「ゲート」と「」の二つを両立させようとして、そのジレンマを攻撃側に利用されてしまうことがあります。

個人戦術と身体能力だけでなくもちろんチームのコ―オペレーション能力が問われる部分でありますが、優秀なDFの発見とジレンマを利用する攻撃側の戦術構築と採択能力の発見は観戦の醍醐味の一つでもあります。

図7-4

話を戻して、先ほどのものをボールホルダー側に目線だけでなく体も少し向けた場合と比較してみましょう。 (図7-4)

図では少し大げさに内側を向いていますが実際には体はラインと平行くらいがいいでしょう。

まず体の準備が内側に向いているのでゲートを通される確率が減ります。(右WG②)

というよりケアをしている以上通させてはいけません。

そうなると今度は当然外側(右WG①)が空いて、上手いパサーだと左FBの左足にギリギリ届かないところに速いグラウンダーのボールを送り、上手いレシーバーだとそれをパーフェクトなタイミングで飛び出して後ろ足(左足)に引っ掛けながらファーストタッチが終わった時にはなかなか深い位置までボールを運べている、なんてことがあります。

が、それでも先ほどの(外に体を開いた左FB の背中を通される)状況に比べたらまだ救いがあります。

パスを出された瞬間に(もちろん外反転でチェイスして間に合うようならそうすべきですが)右WGからいったん目を切ることになろうとも内向きのターンで対応すれば最悪ゴール側に立つことはできます。

裏を取られてもそれ以上の中への侵入を防ぎやすいということです。

ちなみに先ほどからターンの回転方向と「目を切らす」ことについて述べてきましたが「ボールから目を切らさずボールのパス方向に体を向けながら反転しろ」という考えと「マークの選手から目を切らさずその選手に体を向けながらターンしろ」という考え、そして「どちらでもいいから最短でボールに追いつく方を選択しろ」という考えがあります。

実はこれは指導者によって意見が分かれやすい個人戦術の分野の一つです。

まとめると、パサー自分担当者より外側、もしくは同じ程度の幅なら体をレシーバー側に向けても問題ありませんが、内側からパスが来る場合はまずはパサー側に意識を向け、隣の選手(図の場合左CM)とのゲートを通させないことを第一優先にしなくてはいけないということです。体の向きはゲートの幅によって決まります。

(もちろんチームの約束事などで、そもそも右AMに対するプレスの選手ゲートを通させないという条件下でプロジェクトが進められている場合は話が別です。)

この守備側が管理したいスペースはそのまま攻撃側が利用したいスペースでもあり、このスペースを作る/作らせない、利用する/利用させない、の攻防がサッカーの醍醐味の一つでもあります。

私自身が攻撃側の指導するときは、いかにしてこの「長方形(スペース)の幅」を広くしてパサーにパスを出させやすくするかを念頭に置いてトレーニングに臨みます。

また、別のセッションテーマの巻でお伝えします。

 

※「専門家のサッカー解説書 クロスに対する守備 ②」より抜粋

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