例えばこれら(図3-3~図3-5の理屈)が頭の中で整理済みで説明可能な状態になっていなくても「感覚で」分かっている選手に対しては特に不安視しなくても構いません。
問題はこれらを「感覚で」ですら分かっていない選手が一定の割合でいるということです。
ということは当然指導者である我々は彼らのために説明可能にしておく必要があります。
例えばこれらの理解不足のせいで起こるものに、以下の状況での優位性が分からずに起こしてしまいがちな判断ミスというものがあります。(図3-6、図3-7)
条件は全員同じ体のサイズ、同じスピードとして、この二つはGK以外の選手の位置関係と体の角度を全て同じにして彼らのピッチ上の高さだけ変えてあります。
まず図3-6ですが深い位置で左FBをかわした右WMがこの位置からのクロスボールを選択した場合、まず一番大事な部分ですが、GKとDFの間にグラウンダーのボールは通りません。GK–DFユニット間が詰まっているからです。
頭に合わせるボールを送る場合でもこの幅(ゴールからの遠さ)からのセンタリングは、ボールサイド(詳しくはこちら)をしっかりと取れている両CBが対処できます。
レシーブスペースを広げるために左AMがこれ以上開くなら(詳しくはこちら)右FBが左AMのボールサイドへ下りられます。
というわけでこの状況なら当然ドリブルで中に切り込むことによって、GK–DFユニット間にボールを通しやすくするか、あるいはそれをケアするDFたちの動きを逆手に取ってマイナスボールを出しやすくします。(図3-6-2)
つまりここでは右WMがボールを運ぶことによって元々は無かったパスの配給先を作り出す努力をする必要があります。
DFたちはニアとバックポスト(ファー)をケアしなくてはいけないため、プルバック(マイナスボール)のパスコースが新たにできやすいということです。
これに対して図3-7はGKがDFユニットから離れている状態です。
図3-6では無かった待望のアウトレット(パスの配給先)、GKとDFユニットの間が既に存在している状況です。
大したインスイングでなくても左CBに届かないボールをCFに、右CBに届かないボールを左AMに届かせられます。
これを理解せずに「前が空いたから」や「できるだけ左CBを引きつけるために」などの思考を止める魔法のワード的理由でドリブルを続けるとCFや左AMに送れるはずだったパスの角度のアドバンテージがどんどん減っていきます。(図3-7-2)
また、すぐにパスを受けた場合の(白塗りの方の)CFやAMが、進行方向に大きく離れたGKが一人しかいない状態でドリブルをするのと、右WM(青塗りの方)が進行方向(内側)の左CBにディレイを試みられながらドリブルするのとではボールを運ぶスピードにも違いが出ます。
簡単に言えばこの先左CBだけでなく両FBや右CBにも優位なポジションを取られやすいということです。
運よく先ほどの図3-6-2のように左FBに追いつかれることなくマイナスボールの選択も持てる状態になったとしても、先ほどの説明には入れていなかった問題を忘れてはいけません。
MFたちが戻ってくるための時間をかけてしまっているということです。
彼らが戻ってきた場合、プルバックのパスコースも往々にして消されやすくなります。(図3-6-3)
ということはそもそも最初の設定、図3-6と図3-7を比べたとき、観察力の鋭い方はお気づきかと思いますが、「図3-6の方がゴールに近いからよりチャンス」ではなく「図3-7の方がGKから遠いからよりチャンス」と捉えることもできるということです。
もちろんこれは身体能力もスキルもお互いのシェイプ(その時のフォーメーション、ポジショニング)も平均化して話しているので、例えばDF-MFユニット間が極端に空いていたり、きちんとつぶされてはいるがその先のプランを持っている場合(ペナルティエリアの同じサイドの角/超マイナスに選手を侵入させたり、戻ってきた相手の2列目の大外にペナルティエリアの反対の角付近から走りこむ左WMや左FB、ペナルティアークの遠い側の付け根付近に侵入するAMやDMをアウトレットとして用意等々)であったりと、自チームにとってポジティブな要素がある場合は一概にこのとおりとは言えません。
反対に図3-7のようにGKとDFユニットの間にボールを送れる状況でもCFと左AMの足が遅かったり、横からのプレッシャーを感じながらの彼らのドリブルスキルが低かったりすると早めのパス配給は選びづらくなります。
とはいえそれらの状況判断は原理原則の理解、論理的思考のための土台が先ずあってこそのものです。
選手の状況を把握する力を高めるのにどの年齢的タイミングでどのようなことを気づかせるかは論争を呼ぶトピックですが、個人スキルの中に戦術理解とそれに基づく判断も含まれている以上、個人的には「それを選ぶだけの技術はあるのに『感覚で』選べていないと指導者側が気づいたときは何歳ででも」と思っています。
細かい話が少し長くなりましたが、図3-2まで遡りましょう。
※「専門家のサッカー解説書 MFのゴールスコアリングポジションへの入り方①」より抜粋