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専門家のサッカー解説コンテンツ
はじめに
本書は主に戦術分析や採択、指導に関して疑問を抱いている指導者、あるいは知識の幅を広げることによってサッカー観をより深めたいといった分析家やサッカーファンに向けたものになります。
当然のことながら、例えば戦術面に問題を抱えている指導者にとって戦術知識を得ることは問題解決そのものにはなりません。
分析家やサッカー観戦者にとっても戦術を知ることと実際のゲームで起こっている現象を見抜くことは同義ではありません。
「専門家のサッカー解説書 Foundation」でも伝えましたが、選手の戦術理解力と判断力を上げる方法は様々です。(詳しくはこちら)
選ぶべき練習スタイルだけでも多々あります。
同様に分析能力を上げる手法は知識とはまた別にあります。
情報収集を書籍に求めるタイプの方は得てして知識欲や向上心が強く、ということはこの種の本を閲読している皆さんもその時点でサッカーに対する情熱や探究心があるタイプの方々かと窺えますが、本書で知り得た新しい考え、あるいは「知ってはいたけど言語化、体系化していなかったこと」をいかにクラブやご自身のサッカー哲学に沿った形にアレンジするかをこの先さらに求められ、そしてそれらは皆さんの技術やマインドセッティングにかかってきます。
そのアレンジと浸透が満足いくものになったときにはそこからまた新しいアイディアを派生させ、ご自身のコーチ仲間、サッカー仲間とシェアしていただけたらと思います。
そういった小さな積み重ねがサッカー界全体の、あるいは教育現場全体の利益になると私は信じています。
専門家のサッカー解説書
密集エリアでのポゼッションと適切なタイミングの前進
片桐 伸
本書のみかた
“本書の使い方”については「専門家のサッカー解説書 Foundation」で説明が済んでいるので極力重複を避けたいと思いますが、ここでは本書のみを購入された方のために図に用いている矢印やポジション名等の最低限の説明だけをしたいと思います。
・フォーカスする自チームは青、相手チームは赤。
・パス、シュート、クリアなどのボールの動きは
・オフザボールの動きは
・ドリブルは
・各ポジションの名前は英語版と統一するために以下のとおり。
GK…ゴールキーパー
FP…フィールドプレーヤー
DF/B…ディフェンダー
FB…フルバック(サイドバック)
CB/CH…センターバック
MF/M…ミッドフィールダー
CM…センターミッドフィールダー(センターハーフ)
DM…ディフェンシブミッドフィールダー(ボランチ)
AM…アタッキングミッドフィールダー(オフェンシブハーフ、トップ下)
WM…ワイドミッドフィールダー(サイドハーフ)
FW/F…フォワード
CF…センターフォワード/トップ
WG…ウィンガー
C…センター
R…右
L…左
それでは、セッションのオーガナイズの仕方から見ていきましょう。
セッションオーガナイズ
・少人数でのフォーメーション
これはPhase of PlayだけでなくSmall Sided Game等にも用いられる考えなのですが、選手やコーチ自身の力量、確保できる選手の人数や練習スペースの事情などを考慮した時、11対11形式ではなくそこから削り取った8対7や8対8形式に変えてセッションを行うという考えがあります。
ちなみにFAのライセンスコースもUEFA’Bまでは全てのコーチングテーマに対し、試験では多くても10対9での査定が採用されていました。
理由は査定される側のコーチ(受講者)にとって、コーチングポイントとなるような現象が起こるようにセッションをコントロールしながら尚且つそのポイントを見抜いてマネージメントするのは11対11(10)では少し難しすぎるから、というものです。
ここでは人数を削る、削らない、の是非は問いませんが、削る場合コーチングしたいポイントとフォーメーションの噛み合わせをきちんと考えて削る必要があるということだけ簡単に説明したいと思います。
図1-1
図1-1は自チーム4-1-2-3対相手チーム4-4-2を表しています。
このPhase of Playにおいて、特に四角で囲まれたエリアでの6対4でいかにCM2枚とCF2枚で形成された最初のボックスの形を崩すか、そしてそれによって前線への門を開けるか、ということを重点的に落とし込みたいと考えたとき、四角の中の選手たちは当然のことその先のCFとCB2枚もセッションでは必要になります。
そうするとワイドエリアを左右一枚ずつに削るという選択をすると思いますが、ここでもまた注意が必要です。
図1-2
特にワイドエリアの選手の関りを重要視しないセッションならポジションもざっくりと「ワイド左右に1枚ずつ」といったセッティングでも結構ですが、例えば図1-2のようにAMとCFの働きによっていかに特定の相手選手をPin down(束縛し、動きを制限すること)してFBへの道筋を開けるか、かつそのFBに正しいポジショニングを覚えさせるか、というところまでフォーカスしたい場合、削るべき選手はWGとFBの2枚ずつになります
この場合フォーメーションは4-1-2-1対2-4-2です。
図1-3
あるいは図1-3のようにWGの働きでいかにCFをプレッシャーフリーの状態にするか、というところに焦点を当てたい場合は削る選手がFBとWMの2枚ずつになります。
フォーメーションは2-1-2-3対4-2-2です。
図1-4
図1-5
また、図1-4と図1-5のようにDMの関りよりもAM、FB、WGのローテーション、逆ローテーションの癖付けを重視したいときには削りやすいポジションはCFとDM、それに相対するCBとCFの一人ずつになります。
4-2-2(0トップ)対3-4-1です。
これらは例にすぎませんが、コーチングのポイントを絞って起こりやすい現象、起こしたい現象を逆算したところからフォーメーションの噛み合わせを考えましょう。
逆に全体をチェックしたいときには11対11に戻す必要がありますが、その時はランダムコーチングにならないように気をつけてください。
・導入の練習のオーガナイズ
20年近く前に私は日本サッカー協会のC級ライセンスコースに参加したことがありますが、その当時の日本の中枢が推奨していたトレーニングオーガナイズに「M-T-Mメソッド」というものがありました。
試合(Match)をしてプレーの問題点に気づかせてから練習(Training)をして、もう一度試合(Match)に戻して改善を図る。
現在の日本サッカー協会の考えがどのようになっているのか詳しくはわかりませんが、当時の彼らの考えは概ねこんなところだったと思います。
私自身もそうですがおそらく現在のほとんどのチームで試合やそれに代わるPhase of Play(11対10等のフォーメーション練習)、Small Sided Game(7対7等のミニゲーム)を最初のトレーニングに持ってくることは少ないかと思います。
しかしこのメソッドように結果から先に考えて一日のトレーニングを編成するということはとても大切で、例えばアタッキングサードでのペネトレーション(突破)に課題が見つかったとき、解決できた状態をイメージしたうえで
「そのために今日はPhase of Play形式の練習にしよう」
「フォーメーションはこれにしよう」
「コーチングスタイルはゲームフリーズを多用すると“解説者”になりがちだから事前ミーティングと極力シンクロコーチングにしよう」
「今日は初回の練習で成功例を多く出させたいからフォーカスするチームとだけミーティングをしよう」
「その選手選考はベストの選手ではなく、理解力/攻撃力/身体能力に特化した選手にしよう」
そして
「その前の導入の練習はそこを意識させやすいこの練習にしよう」
といった逆算をすることが必須になります。
私自身は成功パターンのイメージを可視化できるように作戦ボードに人とボールの動線のパターンを考えつく限り全て書き込み、それらを写真に収め、そして自分のサッカーノートに落とし込みます。
ペネトレーションのように組み合わせによっては膨大な成功パターンが出てくるものもありますが、全てです。
それらをノートに落とした後、次はそのパターンを類別してその日にコーチングする(問題点に気付かせる/成功例を起こさせる)ものを選びます。
同じ種類のものだけを選ぶこともあれば、あえて一種類に一つずつという時もあります。
それをすることによって導入の練習メニューも決まってくるのですが、ここで注意したいのは次のメインの練習(Phase of PlayやSmall Sided Game等)で教えようとしているポイント全てに繋げられるようなオーガナイズをその導入の練習でしなくてもいいということです。
例えば一日の最終的な成功パターンを4つくらい選んだとして、導入の練習でそれに繋がるように指導するパターンは2~3つくらいでいいかと思います。
残りは選手が自力で解決できるかチェックするためにも取っておきたいところで、できなければそのメインの練習で指導すればいいだけのことです。
指導なしで解決されていたら練習後に褒めながらサマライズをして次回以降も再現できるように促しましょう。
・時間配分
これも「専門家のサッカー解説書Foundation」で少し触れましたが、練習で選手の理解を深めてプレーのレベルを一つ上げさせるのは優秀なコーチなら45分もあれば十分です。(詳しくはこちら)
この45分には導入の練習とPhase of Play/Small Sided Game、それぞれの事前説明、その後の確認ミーティングなども含まれます。(別枠を設けて事前に全て説明するタイプのミーティングなどは含まれません)
配分としては導入の練習に20分弱、メインに20分前後、説明やミーティングに残りの時間を割り当てるのが妥当です。
ただしこれは選手一人当たりの時間であり、例えばフィールドプレーヤーを30人抱えているチームが11対10のPhase of Playをしたとしてもフォーカスできるのは1チームずつなので、メインの練習だけで20分前後×3チーム=60分前後かかってしまいます。
導入の練習を全体で出来たとしてもウォーミングアップやクーリングダウンの時間を入れると2時間近くはかかるかと思います。
使えるグラウンドのスペース、選手の人数、指導者の人数、練習テーマの性格など全てを考慮してスケジューリングしましょう。
それでは戦術コーチングの実際、実践に移りましょう。