また、相手がどちらのサイドにボールを配給するか関係なしに、3-5-2での攻撃終わりに“原則”決められた片方のWBがディフェンスラインに下りて4-4-2で守るチームもあります。(図64)
図64
図はチームの約束事で左WBが常にディフェンスラインに下りるというシステムです。
守るサイドがどちらになるかにかかわらず「常にこっち側のWBがディフェンスラインに下りる」ということはつまり個の選手のタイプによって役割を使い分けているということです。
実に単純明快で良くも悪くも高校生的だと思っていましたが、2018-2019シーズンのリーガエスパニョーラの2部でもこれを見ました。
もちろん「(ディフェンスラインに下りるWBは)“原則”固定」と言ったのは、お互いがオーガナイズドの状態のときなどそのWBがディフェンスラインに戻る時間がある場合に限った話で、例えば「常に左WBがラインに下りる」チームが相手のカウンターを左サイドで受けると、高い割合で左WBは戻りきることができなくなります。
その場合は素直に3バックがスライドしてボールから遠いサイドのWB(右WB)がラインに下ります。(図65)
図65
最後にリヨンスタイルの「迎撃のDF前出し&残りのDFスライド」でしばしば起きる問題点に触れたいと思います。
これは数年前に私自身が自チームの(3-5-2からの)5-3-2ディフェンスでこの戦術を採択したときに起きた実体験でもありますが、フランク(ワイドエリア)でWBを前出しするタイミングで、2トップの一人にユニット間に下りられることがあります。(図66)
図66
このポイントはCBがスライドで捕まえなくてはいけない相手(左FW)に、横に動かれるだけでなく下りられるというところにあります。
右WBが左FBにアプローチする。RB(右のセンターバック)は角の選手(左WM)を捕まえに行く。
ここまでは問題ありません。
ここでCBもスライドして、この選手(左FW)のボールサイドは取れずともより近くにアプローチしたい、しかしその相手に下りられてしまう。そしてこれまでをも追ってしまうとディフェンスラインに大きなお穴が開くので前には出られない。というわけでボールが渡って振り向かれる。(図67)
図67
確か相手はJクラブのユースでしたが、さすがはスタッフの分析と戦術採択の能力、そして選手の理解と遂行の能力が高いのか、このような状況を複数回作られました。
お気づきのとおり、仕組みそのものの問題ではなく、左FBまでの猛スライドを免除されているのにもかかわらず右DMが場所をしっかりケアをしなかったせいで生まれてしまった問題です。(図68)
図68
つまり「場所を守って人を見る」の原則が守られていなかったことを意味します。
アスリートとしての身体能力が問題なのか理解力が問題なのか、あるいはその両方が問題か、これはそのほんの一例ですが、この状況のように、もともとのフォーメーションと仕組みで相手に混乱をもたらせようとする戦い方は、当然自分たちも混乱しやすくなります。
ということは日々の練習、チームデベロップメントにおいても多くの悩みを持ちやすいということです。
日本の場合、3-5-2のチームとなるとプロのリーグ戦でもそれほど多くはお目にかかれませんが、これがユース世代ともなるとさらにその数、率が減るのはこの面倒臭さが理由であるかもしれません。
ということで今回は指導者に向けた解説というよりは観戦者向けの話になったかもしれませんが、とはいえ、やはりミスマッチをお互いに起こそうとするとき、その準備と慣れの差にアドバンテージがそのまま反映するということを考えると、3-5-2のチームと戦うことに慣れていないチームと戦うとき(ほとんどの場合そうだと思いますが)、もし、理解力、身体能力、GKやDFの守備能力など、自チームが成功のための条件をいくつか満たしているのであれば、このフォーメーションを採択するのも面白いのではないでしょうか。
ちなみに3-5-2に対する守備として一番相性がいいのは、つまり「がっぷり四つ」になりやすいフォーメーションはこれもまた3-5-2です。(図69)
図69
相手が3-4-1-2なら3-3-2-2(3-1-4-2)、相手が3-3-2-2(3-1-4-2)なら3-4-1-2がぴったり中盤の形までマッチングしたまま前線マイナス1、中盤同数、ディフェンスラインプラス1を保てます。
ご参考までに。