密集エリアでのポゼッションと適切なタイミングの前進③

 

 

**********

 

まずセッションテーマの本題から最も遠そうな「いつ切るか(ポゼッションも意図のある前進もあきらめて、クリアをするか)」ですが、身も蓋もない話をすれば「危ないときはいつでも(Whenever)」になりますし、ポゼッションも前進もできるだけ自分たちの意図に沿ったものにしたい、そうすることで試合の主導権を握りたいと思っているチームが理想を追求するなら「そんな時は無い(Never)」になります。

 

少し古い話になりますが、黄金期のバルサはクリアの数が非常に少ないチームでした。

一方、2010年ワールドカップで最もクリア数が多く、最もオンプレーの時間が短かったチームの一つである日本代表は、極めて異例と言われているものの、ベスト16に進んでいます。

 

勝利に対する執着心を育てるとともに戦い方への執着心も同様に育てたい指導者の方々にとっては非常に約束化の難しいこの線引きですが、あるべき姿はかつてのバルサのような「Never」のチームにとっても、一つ二つ妥協を許せる条件に「スローインのとき」と「GKとDFユニットの高さに段差がないとき」などがあります。

 

もちろんピリオダイズしたチームデベロップメントにおける自チームの現在地や選手の年齢、目標に鑑みた条件づけでなくてはいけません。

 

それを心にとどめたうえでまず「スローインのとき」から見ていきましょう。

 

図3-1はミドルサードでのスローインのシェイプを表しています。

 

図3-1

 

シェイプ(ポジショニング)自体は個々のチーム戦術の一例なので詳細は割愛しますが、複数の三角形、そして裏と死に体への2つの排出口がきちんと作れている状況です。

当然自分たちの攻撃方向から相手のプレスは来るので、例えばCMがボールを受けた場合、前方の三角形の頂点にいるFWや裏への配給は難しくとも、FWがボールを同時に見ることができない彼らの担当マークであるCBや、彼らが死に体にしたはずの左FBには配給がいくらかしやすくなるはずです。(図3-2)

 

図3-2

 

少し難易度が上がりますが、同様にFWにとっても相手が特にケアをする裏へパスを送るより、CBからのプレスを背中で受けながらも見えている方向、つまり後方にいるCMやスローした右FBへボールを落とす方がいくらかは楽になります。(図3-3)

 

図3-3

 

スローインの状況というのは、(流れの中で)ワイドエリアをボールの奪いどころ(ハメどころ)にしようとする守備チームとその守備連動をかいくぐってポゼッションを、あるいはビルドアップやペネトレーション(突破)を試みようとする攻撃チームのバトルの縮図のようなものです。

 

例えば流れの中でのビルドアップにおいて、攻撃側ディフェンシブサードではリスクを冒したくありません。

反対に守備側は、仮にそれがかわされたとしてもリカバリーする時間的、距離的条件が与えられているので、前がかりにプレッシャーをかけやすくなります。

 

この条件はスローインのときにも当然適用されます。

むしろ(ロングスロワーは別として)最初の(図では右FBからの)スローのパスの飛距離がキックよりも出ないので、そして必ず空中からボール配給がスタートするので、守備側からしたら前がかりになりやすい、なってもいい条件がより顕著になります。

 

それゆえ、敵陣深い位置からの相手ボールのスローイン時にはよく、守備チームが「ハメろ!」という合図とともに実際にマークにより近い位置にポジショニングしがちになります。(図3-4)

GKを除いた全ての選手(と白抜きの)のポジショニングの距離と角度を図3-1のものと同じにしたまま高さだけ変えています。

 

スローイン側もいくら相手がケアしていようが安全策を取って前方に投げることが多くなります。

 

図3-4

 

反対に、アタッキングサードでの守備チームの優先事項はゴールを守ることです。前がかりにプレスをかけてボールを奪えればいいですが、それができなかったときのリスクが大きすぎます。

 

飛距離の飛ばないスローインといえど、最初のスローのパスが収まってしまった場合、次の一手でディフェンスラインの裏やゴール前にボールを送られてしまう可能性があるということです。

 

ゆえに流れの中での状況と同様に、スローインであっても最終ラインの選手のケアはいったん置いておいて、自分たちのゴール前から順にを埋めることが多くなります。(図3-5)

※こちらもGKを除いた全ての選手(と白抜きの)のポジショニングの距離と角度を図3-1のものと同じにしたまま高さだけ変えています。

 

図3-5

 

ちなみに図3-5では左WM(ワイドミッドフィールダー)がスロワーである右FBのケアもいったんあきらめて、一つ後ろの選手(右WM)のケアを左FB2人でするようにしていますが、自陣深い位置での相手ボールでのスローインであっても、このスロワーをケアする選手を前に立たせるチームがプロリーグでもここ1、2年でわずかながら増えてきているように感じます。(図3-6)

 

図3-6

 

自陣深すぎるおかげで裏のケアがそれほど難しくないことや、そのときの戦況による理由など語れる要素はいくつかありますが、私自身の経験でも「場所を守ってを見る」の原則から伝え、そこから抽象度を下げて「最終ラインには相手選手人数プラス1人以上の選手が欲しい」「前線の遠いサイド(図では左FBなど)は死に体にしやすい」などの簡単なアドバイスを与えているだけのところから選手たちの選択を観察してみると、高い確率で選手たち自陣深い位置でもスロワーのケアに人数を割き、そしてやはり高い確率で守備に成功します。

 

さて、これまで「(流れの中で)ワイドエリアをボールの奪いどころ(ハメどころ)にしようとする守備チームとその守備連動をかいくぐってポゼッションを、あるいはビルドアップやペネトレーション(突破)を試みようとする攻撃チームのバトルの縮図のようなもの」であるスローインを用いて、攻守両方側の考えを見てきましたが、「縮図のようなもの」であるということは今回のテーマ「密集地でのポゼッションと前進のしかた」を指導するにあたって、トレーニング時のスローインのルール設定は慎重に行わなくてはいけないということになります。

 

私自身はこのテーマの指導をSmall Sided GameだけでなくPhase of Playや11対11で行うこともありますが、いずれにしてもボールがタッチラインを割ったときに、キックインからスタートするのかスローインからスタートするのか、あるいはサーバーからの配給などスタートポジションまでリセットするのかは、選手のレベルに鑑みたり、同じテーマの中でも特にどのポイントを選手に浸透させたいのかを考慮したうえでルール設定をしなくてはいけません。

 

私の場合はタッチラインを割ったときだけでなく、本来のルールならコーナーキックのときでもスローインからのスタートと設定して攻撃チームの難易度を上げることが多いですが、流れの中ですら(足元にボールが置かれている状態ですら)相手のプレスをいなすだけの技術を身についていないのに、守備側からしたらコンパクトな陣形を保ちやすい条件が揃う、難易度の高いスローインが多めに発生する練習オーガナイズをしてしまうと、言うまでもなく選手の成功体験が少なくなりすぎて充足感が望めません。

 

反対に別テーマで、例えば「ワイドエリアでボールを奪う」トレーニングをする超初期の段階で選手の成功体験を増やさせたいときは、Functional Practice(詳しくはこちら)でピッチを縦3分の2に切り取り、スローインが多めに行われるように誘導します。

 

※「専門家のサッカー解説書 密集エリアでのポゼッションと適切なタイミングの前進」より抜粋

フォローしていただけると とても嬉しいです
Verified by MonsterInsights