さて、このインテルのような通常「中盤3枚の横スライド」、サイドチェンジ時のみの「迎撃スタイルのDFの前出し」とは異なり、もともとボールがある方のサイドから「DF前出し」をシステムとして用いているチームがあります。(図59)
昨シーズンのチャンピオンズリーグで活躍したリヨンもその一つです。
図59
これのメリットは何といっても中盤3枚の持久力をセーブできることです。
相手のフォーメーションによって若干のアレンジはありますが、このシステムだとMFたちが相手の中盤の選手のボールサイドを取りやすく、FBからのパスの配給先の選択肢として2列目のサイドチェンジも除外されやすくなります。(図60)
図60
デメリットは何と言っても前に出したWBに引っ張られるように残りの4バックがスライドするとはいえ、角(主にWM)にプレッシャーが不十分な状態でボールが渡りやすいということです。(図61)
図61
まるで現代サッカーのポジションごとによる力関係の象徴のような「結局選手の能力の高いチームには何をやっても角まではボールを運ばれてしまう」この状況ですが、実はリヨンの多くの試合でこれを見ます。
この力関係の理解というか割り切りのようなものを感じるこの状況ですが、何度もこの状況を見ることができ、その状況そのものの改善ではなく角に渡ってからの対処に努めている、そして良い結果を残している、ということはリヨンにとってこれは「ボールの奪いどころ」の標準設定であり、ここからの攻撃システムも含めた包括的な戦術の算段に入れているということになります。
ここでのポイントはここ(角)にボールが送られた後に、前出ししたWBがしっかりとダウンし(「ライン戻り」-とはいえ必ずしも毎回ディフェンスラインまで戻る必要はないですが)、このプレーヤーのカットインをきちんと制御できるかというところです。(図62)
図62
これがきちんとできず、かつさらにセンターにいるMFやDFたちまでもがするすると内側にかわされシュートを打たれた、というのがチャンピオンズリーグ準決勝、対バイエルン戦での1失点目です。
ちなみにディフェンスラインに人数を多く割いているために前出しできるエリアはフランク(ワイドエリア)だけではありません。
先ほど(最新の3-5-2⑧)のインテルの戦術の解説にもありましたが、FWの人数に勝るセンターバックの一人(LB、CB、RBの誰か)がユニット間に落ちるFWや元からそこにポジショニングしている選手にアプローチしやすくなります。
もちろんリリースよりも早くそこに食いつけば、能力の高いチームほどその穴は狙ってくるので気をつけなくてはいけません。(図63)
図63