理由は簡単です。フォーメーションに選ばれる人材が多く育ってきたということです。
いわゆるサッカー選手のアスリート化です。
「中盤3枚の横スライド」は当然のこと、「迎撃スタイルのDFの前出しとライン戻り」もスプリントの繰り返しを求められますが、それを求められるレベルで遂行できる選手が増えてきたということです。
つまり個のフィジカルスキルがこのフォーメーションの穴を埋めやすくなってきたということです。
これにはボール無しでのフィジカルトレーニングが見直されてきた背景と無関係ではないでしょう。
ここで念のため「中盤3枚の横スライド」と「迎撃スタイルのDFの前出しとライン戻り」をコンテ監督のインテルとリュディ・ガルシア監督のリヨンとの比較を用いて説明しましょう。
まず中盤3枚の横スライドですが、これは文字通りパスが渡ったFBを近い側のMFが捕まえに行くように猛スプリントし、それに合わせて残りの2枚がスライドすることを意味します。(図54)
図54
図54を使ってコンテ方式を大雑把に説明すると、ディープビルドアップ(ファーストビルドアップ)で(GKや)CBが選択したパスの配給先にいる(右)FBは基本的にはMF(左DM)がスライドして対応します。
これに連動して残された2MFのスライドの距離や高さは、厳密にはAMと右DMとでは異なりますが(3MFで作る2つのゲートの幅や角度は異なりますが)、詳細はここでは割愛します。
そのまま自分たちが誘導したサイドのWMにボールを送ってくれれば数的にもポジション的にも問題のない戦いが始まりますが、当然FBも余裕を持ってパスを受けられる分サイドチェンジも視野に入れられます。
が、最終ラインは5枚で守っているので裏や角への配給は反対サイドのWBが対処しやすくここにはそれほど危険性はありません。
そうなるとサイドチェンジでは一つ下のユニット(主に反対サイドのFB)に送られることになりますが、この長い移動距離のパスには反対サイドのWBが前に出て対処します。
サイドチェンジ時に限定した「迎撃スタイルのDF(図の場合右WB) の前出し」です。(図55)
図55
せっかくディフェンスラインがプラス1の状態だったのに1人前に出したことでピンチを招かないか危惧したくなりますが、実際はサイドチェンジのボールなので相手もアイソレートされた状態で、数的有利を作られる心配がほぼありません。
ボールの移動距離も長いので、チームの決め事などで遠い側のDM(図の場合左DM)がディフェンスラインを助けに行くことにする場合でも、その時間的余裕は十分にあります。
理論的には完璧に聞こえますが、デメリットは何といってもMFの負担です。
スライドは片サイドのみといってもやはりスプリントの回数が多くなります。
このためインテルではワイドエリアにスライドを繰り返すことになるMFのために、先ほどの守備時の基本概念「場所を守って人を見る」でいう「場所」への負担を減らすため、CBへのファーストプレス役になる2トップにセンターをきちんとスクリーンした状態での激しいプレスという、丁寧さとハードワークの両立を求め、それのおかげで3MFが少し開き気味に、つまり担当マークであるFBに少し近い状態からスタートします。(図56)
図56
相手がこれに対してMF(CM) 1枚をCB間などディフェンスラインに下ろした場合、特に負けている状況などではMFがまるで昔のマンツーマンディフェンスのようについていきます。
このときのインテルは中盤がスカスカの5-2-3のような状態です。(図57)
何が何でもDFユニットから自由にボールを出させない心意気を感じます。
図57
万が一中盤をバイパスしてFWにボールが渡ったとしても縦に入った長めのボールはCBたちがきちんと対処します。(図58)
チャレンジ&カバーがしやすいのも5バックの利点です。
図58
ヨーロッパリーグの決勝では残念ながら(個人的にはセビージャ推しだったので本音を言えば嬉しいですが)負けてしまったものの、失点シーンは人が揃っている状態でのセンタリングやセットプレー、オウンゴールと、仕組みの問題ではなくインディビジュアル・マター(個の問題)と取れる敗北のしかたでした。
(それが少なからず関係しているのか私の好きなDFが退団になったのは悲しい出来事でしたが。)