いくつかは既に「イタリアとウェールズが3-5-2に辿りついた経緯の推測」で挙げていますが、それとは別にこのフォーメーションのストロングポイントとされているところに「流動性が高い」というものがあります。
相手にとって「担当者誰なの?(誰が誰をマークすればいいの?)」状態を作りやすいとも言えます。
これを「3-4-1-2のフォーメーションやシステムなどで元から『担当者誰なの?』状態になっているチーム」と「基本コンセプトはワイド2枚ずつとしながらも場面によってはシステムで『担当者誰なの?』状態を作ることを試みるチーム」との比較検証をしたいところですが、その前にまず相手の守備の意図から整理しておきましょう。
相手の狙いとしては、どのような守備フォーメーション、守備システムを用いても共通しているのは「場所を守って人(相手選手)を見る」というものがあり、これをもう少し細かく噛み砕くと、多くのチームにとって「中を締めて外にパスを配給させる、そのサイドに人を集めて反対サイドにいる選手を死に体にする」というものがあります。(図11)
守備選手がボールホルダーにどれくらいの強度でプレスに行けているか、反対サイドのワイドプレーヤーがどれくらいの幅、高さでポジショニングしているかによって中盤の逆ワイドプレーヤーの高さなども細かく変わってきますが、長くなるので詳細は割愛します。
ポイントはサイドチェンジを出させないようにスクリーンしながら相手のパス方向を誘導するので、誘導しているエリアに人数をかけやすいことと、反対サイドの、特に後列のプレーヤーを死に体にしやすいところです。
図11
リバプールが使ったことによって有名になった外切りも、縦のパスを引き出してそこでパスカットすることが「第一希望」ではあるものの、その成功がそれほど望めないことは指揮官も当然分かっており、実際に結果もそうなっており、(多くの場面でロングボールを蹴らせることには成功していますが)中央を経由してフランク(ワイドエリア)にボールが出たところを中盤がスライドし反対サイドの選手を捨てる、という点では包括的な「中締め、外誘導、反対サイドの選手死に体」の考えと同じになります。(図12-1,2)
図12-1
図12-2
このような相手守備の狙いの中、ビルドアップ、またはペネトレーション(突破)を仕掛ける攻撃側の理想としては、相手が中央を締めたおかげでプレッシャーが不十分なワイドから攻撃を仕掛け (図13)、場合によっては縦一本で裏を狙ったり(図14)、また締めることを重点的にケアするチームなら急いでスライドする相手の逆サイドへ長いボールを送るか(図15)、あるいは反対にワイドへのプレスへの初手が早すぎたり移動のタイミング自体は早くなくともワイドへのプレスへの意識が強すぎる相手のゲートにボールを通す(中央を使う)か(図16)、そもそもの守備ポジションの間隔を開けてフランク(ワイドエリア)へのアプローチを早くする構えを見せている相手にはやはり中を通すか(図17)、といったものなどになります。
「中盤を制する者はワイドを制す。ワイドを制する者は中盤を制す。ゆえに試合を制す」状態を作ることとも言えます。
図13
図14
図15
図16
図17
この、お互いがオーガナイズドの状態での守備の意図、攻撃の意図はどのフォーメーションで組み合わさろうとも大きく変わるものではありません。
ゆえに守備の基本「キープコンパクト」という言葉があり、攻撃の基本「分散」(ワイドにも中央にも)があります。
さて、ここで「3-4-1-2のフォーメーションやシステムなどで元から『担当者誰なの?』状態になっているチーム」と「基本コンセプトはワイド2枚ずつとしながらも場面によってはシステムで『担当者誰なの?』状態を作ることを試みるチーム」との比較検証の話に戻ります。
まず、通常の3-5-2、中央が2-1のシェイプの3-4-1-2の攻撃時の基本的なシステムで相手の4-4-2の守備を攻略する考えから見てみましょう。