最新の3-5-2① (全10回)

 

 

FA(イングランドサッカー協会)の教えに「自国のトップリーグの試合を最低でも月1回は現場で観戦しなさい」というものがあります。

テレビ観戦ではどうしても画角に収まりきらない範囲があるので、画角の外で何が行われているのかをも含めて、知識を更新するとともに現場での分析力向上に役立てなさいという教えです。

 

その教えを忠実に守っている私はロンドンを離れて日本に帰国した後も、スペインやグアテマラに滞在していたときも、自宅から最も近いプロチームのホームゲームにはできる限り足を運ぶようにしていました。

 

が、映像観戦が全くの役に立たないというわけではないので、自分が指導しているチームや対戦相手の分析とは別に、テレビ観戦によるプロや代表の試合の映像分析を、主に自分の分析力を維持することを目的として、時にヨーロッパのトレンドをチェックすることを目的として、毎日続けています。

 

1日2時間前後それを日課にしているので年間で700時間以上プロの試合を目で追っていることになります。

試合数にすると大体350~400試合ほどです。

 

ここ数か月の観戦では、フォーメーションやシステム、優位性を作るための再現性あるプレーの確認といった一般的な分析はあまりせず、UEFAのラインセンスコースで用いられたPhase of PlayやSmall-Sided Games、Functional Practiceの61個あるセッションテーマに沿った分析をしています。

 

例えばその一つに「Coach a team to attack using wall-passes and combination play in the attacking half of the field」というものあります。

要はリンクアッププレー(連動のプレー)でいかにして相手のディフェンスラインを突破するか、あるいは深く押し下げるか、をコーチするというセッションテーマですが、この手のコーチングポイントを見つけるために参考となる最たるものはやはりプロの試合になります。

 

つまり成功パターンをプロの実例からピックアップしてそれらを自チームのトレーニングに導入するというのがセッションテーマに沿った分析の狙いの最初の一歩ですが、勉強熱心ではある、が経験の浅い指導者ほどこの最初の一歩で終わってしまって、画面から見えた表面の部分、上積みの部分だけを切り取り、場所定義や距離定義に照らしたそれらの類似性だけを基にその特定のプレー(この場合、リンクアッププレー)の原理を分かったつもりになってしまいます。

 

本来は失敗例をも切り取り、そのプレーはどのような条件で成功/失敗しやすいかの考察は当然のこと、その前段階での分析からどのような条件が揃えばそのプレーを発動しやすいのか、そのためにどのようなフォーメーションやシステムが助けになりやすいか、そして、ということはどのようなチームに、あるいはどのような試合状況でこのプレーは向いているのか、といったところまでの理解の助けにするのがこの手の試合分析の意義であります。

 

つまり、パターンをなぞって類似性を発見するだけでなく、そのプレーがなぜ有効かをも含めた原理原則を見つけるところまでしないとセッションテーマに沿った分析の成功とは言えず、ということはこれが成功しないとチームの練習に還元したとき暗記型のパターンドリルしか遂行できなくなるため、中長期の育成にはあまり効果的でないものしか期待できなくなります。

 

いずれ機会があったらその61のセッションテーマや効果的に分析能力を上げる観察のし方や記録の取り方なども書きたいと思いますが、今回のテーマはタイトルどおり3-5-2の考察です。

 

これはトレンドを追うための分析でもプレー単位の原理原則を確認するための分析でも、必ず分析の対象チーム、相手チームの2チームともフォーメーションとシステムくらいは確認していたおかげで気づいたのですが、歴史は繰り返されるというのでしょうか、21世紀に入る前には廃れた(にもかかわらずトルシエジャパンは採用していた)3-5-2がここ数年の間ですっかり復活して再び市民権を得ているという状況になっています。

 

有名どころではチャンピオンズリーグの準決勝まで勝ち上がったリヨン、ヨーロッパリーグ準優勝のインテル(監督は以前の記事で書いたユーロ2016のイタリア代表監督と同じ人物)、果てはプレシーズンマッチでクリスタルパレスと戦ったデンマークのクラブチーム、ブレンビーまでもがこのシェイプ(フォーメーション)を用いて魅力的なサッカーを見せていました。

 

軸にしているフォーメーションではないですがこちらもCLベスト4、ライプツィヒやワールドチャンピオンのフランス代表、前回ワールドカップのベスト4、イングランドもしばしばこのフォーメーションを用います。

 

挙げればキリがないですが、このように多くのチームに採択されているこの3-5-2は、それならばそもそも何故21世紀に入る前にヨーロッパで敬遠されてしまったのでしょうか。

その理由を考えると、そこにはこのフォーメーションのデメリットがいくつか見えてきます。

 

例えばセンターバック3枚にしておきながらストライカー(CF:センターフォワード)2枚置くということは、ほぼ必然的にワイドプレーヤーは左右に1枚ずつしか置けなくなります。

 

1-2-3-4(あるいは3-3-4)という超例外(図1)もありますが、これにしたって攻撃時は常に両方のフランク(ワイドエリア)に2枚の選手を置いておけるわけでなく、2列目の“3”のセンターが1枚しかいなくなる以上それのサポートのために1列目の“4”の中央、CFを下げさせるか(図2)、2トップ(2CF)を下げさせたくないならFB(フルバック/サイドバック)を絞らせる必要が出てくる場面が高い頻度で訪れます。(図3)

また3-3-2-2のようにWG(ウィンガー)を下ろすこともあります。(図4)

 

図1

 

図2

 

図3

 

図4

 

主にビルドアップ時にシステムとして採択しやすい場面になりますが、いずれにしても奇数バック(3バック)偶数トップ(2トップ)の組み合わせは基本的にはワイドプレーヤーが一人ずつになってしまいます。

逆に言えばフランク(ワイドエリア)に左右2人ずつ置きたいのならば4-4-2のようにDF(ディフェンダー)を偶数にするか(図5)3-4-3のようにFW(フォワード)を奇数にする必要があります。(図6)

もちろん偶数バック奇数トップを組み合わせることで中盤1-22-1の並びにして厚みを持たせることもできます

4-2-3-1などがそれです。(図7)

 

図5

 

図6

 

図7

 

今回は3-5-2、つまり奇数バック偶数トップの組み合わせに関する解説になりますが、そもそもこのフォーメーションを採択するメリットは何でしょう。

 

中盤の並びが1-2(3-1-4-2/3-3-2-2)でも2-1(3-4-1-2)でもどちらでもいいのですが、この質問に対して実に多くの人が「センターの選手の人数を増やすことによって中盤での主導権を得やすくすること」と答えます。(図8)

 

図8

 

もちろんこれも正解の一つではありますが、このようなシェイプ(≒ポジショニング)は4-4-2だろうが(図9)4-1-2-3だろうが(図10)多くのチームがフォーメーションよりもシステムで取り入れています。

むしろここ数年のサッカー界では前列のワイドプレーヤーがフランク(ワイドエリア)で張っている方が少数派になってきているとさえ感じられます。

 

図9

 

図10

 

いずれにしろこのようにチームの決まり事で設定可能なピッチ内の選手の比重(各レーンに配置する人数)は3-5-2のメリットでもあるものの、このフォーメーションに特化したものではないのなら「これぞ3-5-2の醍醐味だ」といえる、指導者がこのフォーメーションを採択したくなる魅力、うま味は何でしょう。

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