図9-1
次にGKがハイボールの処理に出たときの対処です。
「俺が処理するからDF達、次のタスクの準備をしろよ」という意味で「キーパー!」とGK自身が叫ぶことはさすがに皆さんも知っていると思いますが、中には「GKが出て来いよ/処理してくれよ」の意味で「キーパー!」と叫んでしまうフィールドの選手がいます。
これはスルーパスの処理など当人しか関わらない状況での「キーパー!」はまだしも(これも無いに越したことはありません)、クロスボールが上がっている状況でのFPの「キーパー!」は絶対NGです。
余談ですが私がブラジルにいたときの準公式戦で、GKのみが使っていいという暗黙の了解ワード「Eu!(俺!の意)」を味方チームのDFが叫びながらクリアをしたところ、その理由だけで「非紳士的行為」の間接フリーキックを取られました。
20年以上も前の出来事なので今でもそれくらい厳しいかはわかりませんが、GKが発する情報はそれくらい特別だということです。
さて、GKがハイボールの処理に「キーパー!」を発したら、認知した時点で近場のDFはゴールカバーに走ります。(図9-1)
図ではニアポストもバックポストもカバーに向かえていますが、あくまであるべき姿、理想論で、ほとんどの場合はGKが「キーパー!」を発するのはギリギリになるので、カバーに行けてもバックポスト側(図だと右CB)だけになるか、それすら行けずにDF全員が相手選手を必死に抑えている、なんてことももちろんあります。
そしてハイボールの処理に出た以上GKはキャッチをするかパンチングで大きくクリアをする必要があり、万が一それが出来ない最低最悪の場合でもボールに触れる必要があります。
最低限GKがボールを触るという条件のもと、(「キーパー!」に気づいた)FPは競り合いをやめて次の準備(ゴールカバー等)に移るわけですから、触れもしないというのは「間違った準備をする」ことになります。
何よりGK自身が「触れないのに≒DFも競ることをやめているので相手に先に触らせる可能性が高いのにゴールを空ける」という間違った状況を作ってしまいます。
そしてGKのアクションの失敗が大惨事を招くのは「キーパー!」を発しているときに限ったことではありません。
その動作そのものが周りに間違った準備をさせてしまうことがあります。
図9-2
図9-2はグラウンダーのボールをGKとDFの間に入れられた時の状況を表しています。
細かく言うとボール寄りから3人とも相手のボールサイドをきちんと取ってダウンしていて、しかし誰も触ることができない、そしてパサー寄りの3人には触らせなかったものの、大外の左WGがまだいるのでGKがそのパスカットへとダイブした、が届かなかったという状況です。
この状況下では、それまでせっかくボールサイドも取れてダウンも早かった右FBはGKのダイブを見て足を止めてしまいます。
何故ならキャッチできなかった場合のこぼれ球を処理する準備をしなくてはいけないからです。
左WGに大外を走られている状況で、ハイボールならまだしもこの角度のグラウンダーのボールをコーナーに逃げる選択をするGKも、また選んだところで実際にそれが出来るGKもいません。
ハイボールのときもそうですが、厳しい言い方をすればGKが積極的になったおかげで大惨事を招く例です。
きつい言い方をすれば「触れないなら出てくるな」です。
特に育成世代の指導者は「積極性の歓迎」とポジション柄「堅実性の促し」とのさじ加減が難しいところですが、GKコーチがいないチームの指導者にとってはここも外せないポイントになります。
※「専門家のサッカー解説書 クロスに対する守備②」より抜粋