代表的なフォーメーションに超ロングセラーの4-4-2がありますが、再びこのフォーメーションを用いて見てみましょう。
イングランド人に広く長く愛されているこのフォーメーションですが(「4-4-2」という名前の雑誌があるくらいです)基本コンセプトとしては、ピッチ内に均等に選手を分散させてグラウンドを広く有効利用しようという考えです。
つまり3-5-2のセンタライズとは逆のところに軸足を置いていますが、同時に相手の守備ベクトルを分散させることによって緩んだ中央を利用しようとするのも、3-5-2とは逆のコンセプトと考えることもできます。(図17)
あるいは相手がきちんとゲートを狭めたままフランク(ワイドエリア)にスライドするチームならサイドチェンジをしやすくなります。(図15)
ここまでは全て前回までに図13~図17で説明したとおりになります。
詳細は割愛しますが、サイドチェンジはバックパスの後に遂行しやすく、さらにそのバックパスの前にはくさびのパスを入れると成功の確率が上がります。
サイドチェンジをするにしてもしないにしても縦のパスを送って相手をセンタライズする、あるいはそのまま中央からの突破を図ることはどのフォーメーションで戦うにしても求められるプレーであり、そしてそのためには当然そのパスの受け手が必要になります。
これを図33の3-4-3でのCFとWGの関係同様、FWとWMのどちらかがCBとFBの両方をピンダウンした状態で、もう一方がユニット間に下りてその受け手の役を担うか(図37)、
図37
あるいはFBがオーバーラップを見せてFBをピンダウン、WMがゲート間で受けに下りる、ということが4-4-2では多くなりますが(図38)、
図38
このときの「担当者誰なの?」が3-5-2のそれと比べてそこまで「誰なの?」になり得ない理由があります。
その理由のヒントもやはり守備の基礎概念「場所を守って人(相手選手)を見る」にあります。
ここでさらに細かく守備の基本概念を整理しましょう。(図39)
図39
例えば図39のような標準フォーマットのままのポジショニングをした4-4-2に対して4-4-2で守備をするとき、左CMは自分の背後、左CBの前のスペース(①のスペース)を守り(≒自分と両隣の選手の間にグラウンダーのパスを通させないようにし)、自分の前の選手(右CM)にボールが渡ったら間合いを詰めに、場合によってはボール奪取をしに移動します。
同様に左WMが②のスペース、特に左CMとの間にはグラウンダーのパスを通させないように守りながら、右FBにボールが出たらプレスをかけにいきます。
最終ラインの選手の例を挙げれば、左CBは裏(③のスペース)を取られないようにケアをしながらも万が一ユニット間(①のスペース)にボールが入ったら人(図の場合、右FW)に詰めに行き、同様に左FBは④のスペースを守りながらも②に侵入してくる選手(図の場合、右WMや右FB)にボールが渡ってしまった場合、潰しに行きます。
このように「場所を守りながらパスが出たら(場合によってはパスが出る直前に)人をケアする(マークする)」を繰り返すことがオーガナイズドの状態での守備の基本の一つになりますが、これ(担当スペースと、特に担当マーク)を守備側にとって分かりづらくすることを攻撃チームが試みるにあたって、二者での操作では守備側はある程度対応できてしまう、というのが「担当者誰なの?」状態になりづらい理由と言えます。(もちろんポジション移動なしの標準フォーマットのままよりは守備側にストレスを与えることはできますが。)
ちなみにWMとFBの二者入れ替えの一般的な対応としては再三説明しているとおり、パスが出るまではゲート間をケアして、パスが出た後にWM、FBの高さによってWMとFBのどちらがアプローチします。
FBの位置がそれほど高くないなら通常通りそのままWMがFBにアプローチしてFBが斜め落ちしているWMをケアすればいいし(図40)、
図40
最終ライン近くにポジショニングされてしまったらFBが寄せてそのFBとCBの間にWMが下りてWMの裏抜けなどをケアします。(図41)
図41
中には「スペースと人」の概念関係なしにディフェンスラインの前の選手をさらしてでもオーバーラップするFBに対してパスが出る前から完全なマンツーマンでWMが対応することもあります。(図42)
これは守備のレベルが低いチームに起こりやすいとは一概には言えず、戦況や時間帯によってはチャンピオンズリーグの決勝トーナメントの試合などでもこの状況を観ることができます。(主にFBへの対応限定であることが多いですが)
図42
以前の記事でも紹介したように三者の入れ替え(ローテーション/逆ローテーション)で相手の穴をつく方法は二者でのそれよりは効果的ですが、相手の守備のレベルが上がるほど、(先ほどの限定的なマンツーマンディフェンスは別として)個人であろうと複数人でのリンクアップ(連動)であろうとモビリティや視野の駆け引きでは守備に穴は開きづらく、「優先順位を守って危険なところからケアをする」、「パスの行き先が分かってから動く」という原理原則のもと、MFから見える場所、よくても“WG下”にボールが行きやすくなります。(図43、44)
図43
図44
「優先順位を持って」、「パスが出てから」ということは言い換えれば「分からなかったらむやみに前に出ない」ということです。
つまり種を明かせば、これまで散々3-5-2で例に挙げてきた相手の守備の操作を試みるシステムも、希望順位としては①相手の守備ポジションを動かす②相手の体の角度を動かす③相手の首(≒視野)を動かす④相手の意識(≒重心)を動かす、というものになりますが、相手守備のレベルが上がるほどボールが出る前から①の相手のポジションを移動させることは難しく、できても攻撃側のプレーを予測しての一歩程度か、あるいはそれ以下の重心移動くらいになります。
そして攻撃側の方もレベルが上がるほど、このたった一歩、ただの重心移動で相手を仕留めることができます。
裏へ抜け出すスピードといった身体能力や正確にキックする技術だけでなく、視野のバトルで勝ち得た、あるいはモビリティで勝ち得たスペースに受け手が飛び込むタイミングと出し手がそこへボールを送るタイミングを合わせるスキルも高くなるからです。(こちらとこちらとこちらを参照)
そしてこれはどのフォーメーションでの戦いでもあてはまるものであり、ゆえに結局は「元から3-4-1-2のフォーメーションや(特定のフォーメーションに限らず)標準システムで相手とのミスマッチを作っているチーム」の方が「基本コンセプトはワイド2枚ずつとしながらも場面によってはシステムで『担当者誰なの?』状態を作ることを試みるチーム」よりもお互いのフォーメーションが最初から噛み合わない分、守備側に混乱を起こさせやすいと言えます。
戦術を構築する意義とも言えますが、「自分たちは分かっているのに相手は分からない」あるいは「分かっていても対処できない」チームを作るのは、試合前までに指揮官が準備すべきことの一つであり、故にこの3-5-2においては、相手にとってフォーメーションそのものやその流動性の高いプレースタイルに慣れていないからという単純な理由で、守備に混乱を起こさせやすいということになります。
それならなぜ、「最近流行りの」とうたってはいるもののまだまだ3-5-2は少数派で、4-4-2や4-5-1、4-3-3、3-4-3が大多数を占めるのでしょうか。