ちなみにこれが中央2-1ではなく1-2だった場合、つまり3-4-1-2ではなく3-1-4-2/3-3-2-2だった場合、前線の流動性はさらに増します。
2トップやWBだけでなく2枚に増えたAMも1枚のときよりさらに角(最前線最ワイド)を取りに行きやすくなるからです。(図31)
図31
このプレーでAMが生み出しているのは「よく斜め落ちするWGなの?よく角に広がるAMなの?」状態です。
図のように元々のポジショニングでWMの守備意識をセンターに向けるのはAMが1枚のときと変わりません。
ちなみにこれは4-4-2ボックスのコンセプトと同じです。
最終ラインとDM(ディフェンシブミッドフィールダー/ボランチ)の枚数に変化があるだけで、前線に関してはその流動性と相手の守備意識を操作する意図、そしてその手順に大きな変わりはありません。(図32)
図32
この4-4-2ボックスの例からも分かるとおり、この大まかな理論「MFラインの背後の選手の自由度を上げることにより相手の守備意識をセンターに向け2列目以降のワイドプレーヤーをプレッシャーフリーの状態でボールを受けさせる(もちろん可能ならセンターでボールを受けたり場合によっては裏抜けもさせる)」のは何も3-5-2に特化したものではありません。
3-5-2の場合、MFユニットのゲートに顔を出したり角を取りに行ったり、角を取りに行くFWの代わりに中央の裏抜けを狙ったりするのは、中盤のシェイプが2-1(3-4-1-2)でも1-2(3-1-4-2/3-3-2-2)でもAMが担うことが多いのですが、例えば3-4-3フラットで3トップの幅が4バックの幅より狭くなるようにシェイプしながらWGとCF(センターフォワード)のどちらかがDFをピンダウン/ピンバックする、そしてもう一方が下りてDF-MF間にパスの排出先を作る(図33)、もしそこにDFがプレスにくるならピンダウンをしていた選手やCM(センターミッドフィールダー/センターハーフ)が裏でボールを受ける(図34)といったシステムも多くのチームで見られます。
図33
図34
4-1-2-3でも同様にこのプレーは多くみられ、有名なところで言うと過去シーズンのバルサやシティの仕組みがこれに当たり、ユニット間、角、中央裏の流動性に3トップと2AM(アタッキングミッドフィールダー/オフェンシブハーフ)の5人が関わります。当然FBもフランク(ワイドエリア:角や裏も含む)でのプレーに関わっています。(図35)
図35
ちなみに最近分析した試合で4-1-2-3の少し珍しいタイプの “3-5-2化”がありました。
ネーションズリーグの対フランス戦(9月の方)、クロアチアのフォーメーションとシステムです。
その週のベストマッチにも選ばれてUEFAの公式サイトから誰でもフルタイム視聴できる試合だったので観ている方も多いかもしれませんが、残念ながら試合自体はフランスが勝利する試合です。
公式発表は4-1-2-3だったもののふたを開ければ前線の完全なる3-5-2化、両WGが絞ってCFがダウン、両FBとも2AMと同じ高さまで上がることを通常フォーマットとしていました。
両CBとGKのビルドアップの能力が高かったためDMがCB間に落ちることはそれほど多くなかったので、攻撃時の多くで2-1-4-1-2のようなシェイプをしていましたが、標準フォーマットとは呼べない頻度であったもののDMが最終ラインに下りたときには完璧な3-4-1-2を形成していました。いずれにしても攻撃時の3列目から1列目はほぼ常時4-1-2でした。(図36)
図36
いずれの例からも分かるとおり、通常フォーマットとしてフランク(ワイドエリア)に配置する選手を1人のところからスタートする「3-5-2のフォーメーションや(上の例に挙げたとおり3-5-2フォーメーションに限らず3-4-3や4-1-2-3のように)システムなどで元から『担当者誰なの?』状態を作れるチーム」の守備攻略の意図と特徴は、センターへの選手配置によるセンターの攻略、及び相手をセンタライズして(中央に集めさせて)フランク(ワイドエリア)の有効利用、という単純なものだけではなく「DF-MFユニット間のワイド」「DF-MFユニット間の中央」「ワイドの裏」「中央の裏」に守備のベクトルを出しづらくさせるところに特徴があります。
それではもう一つの方「基本コンセプトはワイド2枚ずつとしながらも場面によってはシステムで『担当者誰なの?』状態を作ることを試みるチーム」の基本概念はどのようなものになるでしょうか。