戦術練習に特化した注意事項

 

 

1.両方のチームを同時に見ない。

ゲーム分析に関しても同じことが言えるのですが、世界中どこを探しても、複数のチームを同時に正しく観察できる指導者はいません。
プロクラブや代表チームの監督ですら不可能と言われています。

必ずフォーカスするチームを決めて、テーマに沿った指導を心がけてください。

2.解説者にならない。

ゲームフリーズそのものにも違和感を見つけ出す能力とプレーを止めるタイミングといったスキルを求めまれますので指導初心者には起こりづらい現象ではありますが、せっかく上手に問題点を切り取ることに成功しても「ここが良くない」、「こうすべきだ」などの言葉の説明だけで終わってしまう指導者にしばしば出会います。

フリーズした時は選手が理解を深める最大のチャンスだと思って、コーチによる実演、あるいは選手(達)自身が行う改善ロールプレー(「ウォークスルー」といいます)を2、3回繰り返すなど理解の浸透を試みてから、プレーをリスタートさせたいものです。

3.Primary, Secondary, Tertiary(第1、第2、第3)

ゲームフリーズ+ウォークスルー等で、テーマに沿った指導をするとき、さらにそこから指導するポイントの順番を気にしたいものです。

例えば、アーリークロスの守備の理解を深める練習をしているときに、最も重要なのは落下地点に入り、空中で競り合う選手本人になります。
ここがPrimary(第1)になります。
カバーリングやセカンドボールの対処のためにシェイプする(ポジションを取る)選手がSecondary(第2)になります。

この2つの問題点が解決していないうちから、Tertiary(第3)の大外の選手の肩の角度の指導や、前線で待つFWのポジショニングの指摘をしても、PrimaryとSecondaryが改善された後とでは状況が変わる可能性があります。

重要なことから先に伝えるというシンプルさの観点からも、順番には気を配りましょう。

4.時間の配分

端的に言えば、ダラダラと練習をするのはやめましょう、ということです。
持久力のトレーニングですら、フレッシュな状態でスタートした方が大きな効果が得られるくらいです。
技術、体力をも含めた総合力を求められる戦術練習は、導入となる練習も含めて45分間前後が適切かと思われます。

ということは指導者自身もこの時間内で全て終わらせなくてはいけないわけで、短い時間でチームの成長が望めるかどうかは選手ではなく指導者の力量にかかっています。

とはいえ、日本の都市部の部活動など、扱う人数は多いのに使える面積が小さい、といった状況下では、部活動そのものの時間はそこから大幅に伸びてしまうことでしょう。
45分間という目安は、あくまでウォーミングアップとクーリングダウンを除いた選手一人当たりの活動時間の目安です。

いずれにしても、選手の集中力はそれほど長くは持たないので気をつけましょう。

また、戦術練習に特化したことではないのですが、一日単位のトレーニングの時間配分だけでなくシーズンを通してのピリオダイゼーションももちろん必要になります。

(*「ピリオダイゼーション」という言葉は間違えやすい和訳で輸入されてしまった経緯が日本サッカー界にはありますが、本来はperiod=期間、時代、periodisation=「時代/期間区分、期間化 (すること)」といった旨の意味で、スポーツ界では「(主に医学的に)時期に合ったトレーニング計画を立てること」を意味し、特にサッカーの指導、育成の現場では長期計画を元にそこから逆算してチャンクダウンした中短期の計画化と遂行を意味します。西ヨーロッパ経由で輸入された戦術的ピリオダイゼーションは「戦術」の方ばかりがフォーカスされているせいか「マクロとミクロの関係(別の機会にまた書きます)」のピッチ上で起こる現象とその切り取りのことを意味しているイメージを持ちやすいですが、本来のピリオダイゼーションはこの「マクロとミクロ」の「時間版」のことのみを指します。)

5.コーチングのタイミング

イングランドサッカー協会が主催するUEFAの資格試験では、ゲームフリーズのタイミング、フリーズ時間の管理(長くならない)、フリーズ中のコーチング内容、その後のチーム/個人のプレーの改善状況などを査定して、そのコーチが資格を取得するに値するかどうかが判断されます。
誤解を恐れずに言えば、ゲームフリーズを用いたコーチングこそが最もチーム戦術の理解を深めるのに効率的であり、かつ指導者の能力が問われるタイプの指導法であるということです。

しかし、ゲームフリーズとは言い換えればプレーの中断ですから、選手の集中ややる気をそいでしまう恐れがあります。
シンクロコーチング(外からの声かけ)で改善できるのであれば、それに越したことはありません。

一方、大まかなテーマだけでなく、細かいポイントまで事前ミーティングなどで先に選手に伝えてしまうと、(特に日本人は)その事のみに集中してしまいがちで、応用力や更には自己解決力を育む機会を失ってしまう可能性もあります。

そしてゲームフリーズでのコーチングにはやる気や集中力以外の面で、フォーカス側のグループ(チーム)への説明を対戦グループ(チーム)も聞いているため、リスタート後の問題解決へのハードルが、相手に事前知識がある分一気に上がってしまうといった難点もあります。

このように、それぞれの手法に一長一短がある以上、状況によって使い分けをしなくてはいけません。

例えば全く新しいコンビネーションプレーを癖付けさせるために、多少強引でもトライの回数を重視したい時には、事前ミーティングで選手に伝えるのもいいでしょう。

「このシチュエーションではこの選択が最適だ」という“場面を切り取る”力を養わせたいときには、相手チームに聞かれたとしても、ゲームフリーズの方が適しているでしょう。

そして誰に情報を伝えるか、ということも考慮したいものです。
上記の例のようにフォーカス側、相手側双方に伝えていいこともあれば、例えば導入の練習などで成功例を増やしたいがためにフォーカス側のチームにのみ伝えた方がいいこともあります。
反対にわざと特定の局面を起こさせる(問題点を浮き彫りにする)ために、相手チームをコントロールすべくそちらにだけ指示をした方がいいこともあります。

これらは事前ミーティングでだけでなくプレー中においてもある程度使い分けが出来ることです。
正確にはゲームフリーズとは違ってプレーが切れた時に、例えば難易度を上げるために相手チームだけ集めて指示をするといった手法です。

選手の理解力や状況に応じた伝え方を心がけましょう。

 

※「専門家のサッカー解説書 Foundation」より抜粋

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