心技体と習慣

 

 

スポーツ指導に限らない話ではありますが、目標達成のための必要なアプローチに有名な3つの観点があります。

心・技・体と呼ばれるものです。

そしてこれら3つの土台に「習慣」というものがあると私は考えます。

と、その前に、目標を達成するためにまずはハードそのものを良くすること、つまり目標を達成しやすい人間そのものになってしまう方が、具体度を上げた細部の技術的うんぬんをどうこうするより、中長期的に見れば効率的だと私は考えています。

そしてそういう人間になるために、ここで習慣からのアプローチが登場するわけですが、言い換えれば習慣改善などの間接的な努力を用いた方が結局は最終目的地により早く到達しやすくなるということです。

「山の行より里の行」という言葉があります。

山での修行で得たものを日々の生活で実践しなさいというのが元来の意味ですが、非日常で特別なことをするよりも日常で当たり前のことを実践し続ける方が大変であり、より重要性だとも説いています。

それではこの里の行≒良い習慣の継続が心技体の成長スピードに、具体的にどのように関わってくるのでしょうか。

例えば「強いボールを狙ったところに蹴りたい」。

誰もが望むリリースの技術向上において「どのように軸足を置くか」、「どのように蹴り足を振るか」というような局所的な指摘をするのではなく「正しい重心を作る」、「正しい核の使い方をする」という大局的なアプローチを優先した方がより生産的で健全的な感じがする、ということに関しては皆さんも異存はないでしょう。

※ただし正確には、例えば「重心を真ん中に置きなさい」などの直接的な(結果を先に述べる)働きかけをすると大抵の選手は足元だけで重心を操作するように試みます。
という理由からここで初めて、詳細は省きますが、俯瞰で観た他の部位に対する(イメージ的なものなどの)働きかけが必要になります。これは個人によって変わります。

例えば正しい重心の獲得は各々の動作に対して正しい体の使い方をする第一歩となるわけですが、問題はこのトレーニングをいつどのようにやるのか、ということです。

学校の部活動であろうとクラブチームであろうとだいたい一日当たりの平均練習時間は日本の場合2時間くらいでしょうか。

その2時間にはコーチの説明を聞いている時間、ウォーミングアップの時間、練習のタイプによっては順番を待つ時間なども含まれるので、実際にトレーニングで体を動かしているのはせいぜい40~70分程度でしょう。

その40~70分間だけ正しい姿勢を意識しながら運動をすればいいのか。

習慣という名の蓄積とは偉大なもので、例えばたった15、16歳程度の少年でも、個人が持つ癖というものはなかなか変えられるものではありません。

ということは寝ている時以外の全ての時間に(場合によっては寝ている時間も)自分自身の姿勢や動きを意識し続ける(身体意識を鍛える)必要があります。

電車で立っているときの姿勢、学校内や自宅内での移動中の歩行フォーム、座り方、立ち上がり方の改善に努めるわけです。

と書くと少し大げさですが「良くない癖を良い癖に変えるためには日々の生活から心がけましょう」、更に言えば「それをストレスと感じずに、努力の一つと捉えて成長を楽しみましょう」ということです。

「ボールを蹴る」能力の向上は、心技体で言えば“技”やそこに繋がる“体”の部分ですが、習慣との結びつきは“心”にも当てはめて考えることが出来ます。

例えば、自分で決めたタスクをきちんと遂行できない日があります。

また、自分が志す規範から外れた行動をしてしまう時もあります。

多くの場合“サボり”と“ビビり”から来るものであり、この二つはピッチ上での良くない結果に対する原因の大部分にもなっています。

一方で“サボらず”“ビビらず”過ごせる日もあります。

この二つの違いの原因となっているものの一例に睡眠があります。

例えば電車の中でお年寄りに躊躇なく席を譲れるときというのは、言うまでもなく「気持ちが積極的な時」です。そして気持ちが積極的な時の多くは体調がいい時です。

反対に「疲れているから席を譲りたくない」ときというのは、体そのものを休めることを言い訳にしているようで実は「疲れているので気分が積極的になれない、社交的になれない、声をかけることに尻込みしてしまう」という、むしろ気分との因果関係が間に挟まれています。

そして所局的な気持ちの元の原因となっている体調不良や疲れの、更に元となっている原因に、この睡眠の量と質があります。つまり習慣に原因があるということです。

目標達成におけるルーティーンの大切さが説かれて久しいですが、睡眠以外にも、食事、瞑想、料理、日誌(日記)や、スポーツに直接関係のない人でも、ジョギング、ウォーキング、ヨガ、ストレッチなどの適度な運動を実行することを、その後の一日を成功させる行動パターン(ルーティーン)に取り上げる人が多くいます。

人によっては「心」「技」「体」「習慣」を並列に考えている人もいますが、冒頭でも述べた通り、私は心技体の土台に習慣があると考えています。

そしてその土台の上にある「心」「技」「体」にも順番というものがあると考えています。

良い習慣が定着しているから、体の使い方が上手で、体が安定しているから心(主に脳の感情を司る分野)も安定し、心が安定するから脳全般を効率よく使え、故に物事(技術)の習得が効率的になる。
(とはいえ、心の在り方から身体の状態にアプローチすることなどもあるのでこれらは複雑に絡み合ってもいます。)

心や体が目標に向かう状態になっていないようでしたら、まずは好ましい習慣の中から一番簡単にやれそうに見えるもの、好めそうなものを選んでやってみてはいかがでしょうか。

選手に「やらせてみては」ではなく「やってみては」と申したのは、スポーツの指導者だけでなく部下のいる会社員など人を育てる立場にいる人なら誰でも、まずは「やらせる」より「やってみる」ほうが近道だからです。

この手の自分用のルール設定も習慣による達成アプローチ法の一つです。

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