密集エリアでのポゼッションと適切なタイミングの前進⑬

 

 

**********

・守備ベクトルの操作

 

これまでの解説で、サポートはボールを受ける(持っている)選手の背後ではなく、見えている方向にポジショニングしてほしいという当たり前のことが整理できました。

そのサポートする選手2人いれば、その形がボールを受けた(持った)選手を頂点とした順三角形になるという考えです。

 

当然このサポートは頂点の選手がリリースのために大きな動作を必要としない、またはそれほど技術を必要としない距離が望ましくなります。つまりワンタッチでのパスも選択肢に入れることができる距離です。

 

どこまで近くするかはその折り返しのパスを受ける選手の力量によるところもありますが、これは密集エリアでのポゼッションの話だけではなく、例えばディープビルドアップ(ファーストビルドアップ)においても、相手の守備連動をはがすために、できればボールホルダーが少ない動作、短い時間でボールを逃がせる距離でのサポートが望ましい反面、サポートする選手が近づきすぎると今度はその選手がボールを受けたときに相手のプレスを受けやすくなるというジレンマがあります。

このように、これは全ての状況に通じる話であります。(図7-1)

 

図7-1

 

そしてこれは図4-15~図4-20で説明した、ピッチ上の高さによるリスク管理の話でもあり、チームのカラーが出やすいポイントにもなります。

 

一般的には自陣ゴールに近い場所では(特に“維持”や“回避”のパスを受けることになる選手は)相手選手から離れることを優先し、相手のゴールに近づくほどサポートの距離が近くなる傾向にあります。

 

もともと近い距離でのサポートプレー≒密集エリアでのプレーは、ピッチ上のどこでボールを失ったとしても、距離が近いこと自体が素早いボール回収のための利益になります。

つまり攻守の切り替えの役に立つということです。

 

とはいえ、そのボール回収のPrimarySecondaryたちのプレッシングがかわされる可能性があったり、そもそも相手自分たちからのボール奪取のファーストタッチでシュートを打てるような条件を与えやすい自陣ゴール近くではリスクを冒したくない、というのがこのリスク管理の考えの根底にありますが、ということは反対に言えば、、自陣ゴールから遠い場所でならサポートを近づけたことが裏目に出てボールロストをしても、後方で待つTertiaryの選手たち(主にDFMF3~4人)がリスク管理のシェイプをしてくれていればリカバリーの時間と距離を稼ぐことができます。(図7-2)

 

相手目線で見ても、自分たちが守るゴールに近づくほどむやみにボールにプレスにいけなくなります。

ボールがリリースされる前から予測で動いてプレスをかけ、それが裏目に出た場合、惨事を招きます。

ディープビルドアップで守備のファーストユニット(主にFW)がボールチェイスしてそのプレスをはがされるのとはわけが違います。

 

図7-2

 

これがサポートの距離に関するざっくりとした理屈です。

多くの指導者や解説者が「距離感が良くない」と指摘する状況のほとんどが「距離が遠すぎる」方を示していますが、実際には「距離が近すぎる」がゆえの「距離感」の悪さも当然ながら存在します。

 

ところでなぜ指導者や解説者はしきりに「三角形」という言葉を使うのでしょう。

これは距離の方ではなく角度の概念を表しています。

 

これに関しては先ほどからさんざん説明している順三角形と逆三角形の違いにも通じる話なので、既に完全に理解できている人もいらっしゃるかと思いますが、念のため守備側の意図や攻守の力関係が見えがちな試合展開などの紹介も含めて説明したいと思います。

 

図7-3は4-4-2のビルドアップを4-4-2で阻止しようとする意図とその配置を表しています。

 

例えばGKがボールを持ったとき、守備ファーストユニットになる2人のFWにとってまずケアをしなくてはいけない場所は2人で形成されたゲートになります。

エリアで言えば自分たちの後ろの選手たちとのユニット間、図では右CMがいる位置になります。

 

「場所を守ってを見る」の原則でいうところのまず場所を消すことを優先しながら、ボールが動いてから(動いている間に)「」を捕まえに行きます。

ここで言う「」とは自分がマークを担当している相手選手のことです。

 

この「相手選手」は特定の決められた選手のこともあれば、「その場所に来た選手であれば誰でも」という設定になることもありますが、試合前までに分析が済んでいれば再現性のあるパターン(システム)が見えてくるので、結局は同じ選手になる頻度が高くなります。

 

図では左FW2FW2CMで形成されたボックスをケアしながら(場所を守りながら)右CBを見て(を見て)ボールが出てから捕まえにいっています。

 

ここでボールを受ける選手が1列前から下りてきた選手だったとしても、受ける場所は同じだからという理由でやはり左FWが捕まえにいく、というのが「その場所に来た選手であれば誰でも」という考えです。

 

図7-3

 

同様に、右CBにボールが渡った状況では左WMはまず左CM自分の間にできているゲートを閉めて、左CB左FBとの4人で形成されたボックス(図では右FWがいるところ)にグラウンダーのボールが渡らないように守ります。「場所を守って…」の場所がここになります。

そして右CB右FBへのパスを選択、実行させたらそこにアプローチします。

この右FB左WMにとっての「…を見る」の「」になります。(図7-4)

 

アプローチの速度やワイドのプレーヤーにパスを誘導させるときのポジショニング及び体の向きなど守備の詳細は語れることが多いのですが別テーマになってしまうので本書では割愛します。

 

いずれにしても最初の「場所」を守れなかった場合、つまり自分隣の選手との間にできているゲートを通されるのが、なぜ守備側にとってよくないのでしょうか。

 

図7-4

 

左CBのプレスが遅れて受け手右FWに前を振り向かせてしまった場合、ディフェンスラインは後退します。

MFユニット担当マークを気にしている場合ではありません。急いで帰陣する必要があります。

 

また図7-5のように左CBがきちんとプレスをかけて前を振り向かせないようにしていても、右FWにボールが収まるのであれば左CM左WMはプレスバックに向かわなくてはなりません。

 

左CBのスキルが高くて右FWがワンタッチしかできない状況でも視線はボールに向かってしまいます。

 

つまり「場所を守ってを見る」の「場所」を守れなかったせいで、いずれにしても自分がマークを担当していた相手選手、「」から視線を外してしまうことになります。

 

攻撃側の視点で見れば、この状況を生みたいがためにパスは一つ奥に、先ほどまでの言い方で言うところの「2歩」前に進ませたいわけです。

 

つまり三角形とはただ単にプレスを受けている味方選手のサポートの高さ(などの位置関係)のみを具象化したものではなく、相手のポジション、体の向き、視線を操作するための角度的ポジショニングを表しているということです。

 

図7-5

 

ところで図7-3と図7-4では左FW左CMも縦の線で結ばれています。

これはここにもゲートがあるという概念です。

 

例えば図7-6のようにGKから右CBに入ったボールに対して担当者である左FWがそのまま真っ直ぐプレスをかければ、斜め後ろの担当の場所はそのまま自然にスクリーンされやすくなるので(左FW左CMで形成される縦のゲートにボールが通りにくくなるので)左FWにとって実はこのシーンはさほど問題ではありません。

 

図7-6

 

ただし、右FBへとパスを誘導することに成功したとき、FW-MFユニット間に横からパスを通させないために左FWがきちんとダウンする必要があります。

この場合、左FWと縦のゲートを作るパートナーは左WMになります。(図7-7)

ダウンしたせいで右CBにリターンのパスを通されたら二度追いをすればいいだけです。

 

この右FBのスキルが高くて右FWのダウンする距離が増え、右CBがプレッシャーフリーの状態でパスを受けることになり、それのせいで二度追いができずにセットのし直しになろうとも、右FBにボールが渡った状態では右CBに固執することは賢明ではありません。

右FBのスキルが高いならなおさらです。

 

とはいえ、もちろんやみくもにダウンして縦のゲートをケアすることだけがあるべき姿でもありません。

これは左WMのプレスの強度、守備の上手さ、身体的なリーチ、そして左FWの守備範囲の広さなどを考慮したうえで、チームの現状や(特に育成世代なら)目標も含めて、このダウンする高さを設定することになります。

 

図7-7

 

同様に右WMにパスが渡ったら左WMを含めたMFユニット全体はダウンしてDF-MFユニット間を狭める必要があります。(図7-8)

ここをケアする重要度は先ほどのMF-FWユニット間よりも増します。

 

図7-8

 

この縦のゲートのケアをサボると、自分がマークを担当する選手から目を離すことになります。

そうならなくても意識はボールに向かいます。

 

前章で説明したときのようにボールが2歩進む(ボールを2選手分中央に入れる)のが理想ではありますが、図7-9のように1歩進むパスでも十分に三角形を利用できる条件が揃います。

 

図7-9

 

これらのことから分かるように、後ろからだろうがフランク(ワイドエリア)からだろうがボールを“射す”、”スナイプする”プレーは攻撃側にとっては有効であり、守備側からしたら縦にも横にも自分たちの守備ブロックにはボールを入れられないように連動する必要があります。

 

みなさんも外側の選手を線で結んだ六角形(五角形や七角形などになることもあります)を映像観戦しているときに見たことがあるのではないでしょうか。

あれがボールを通されたくないゲートを結んだ、守備側がボールを入れられたくない守備ブロックを大雑把に表したものになります。(図7-10)

 

図7-10

 

※「専門家のサッカー解説書 密集エリアでのポゼッションと適切なタイミングの前進②」より抜粋

 

 

フォローしていただけると とても嬉しいです
Verified by MonsterInsights