戦術全般に言えることですが、その構築には「選手の個性に合わせて」練っていくタイプと、指導者の知っている勝ちパターンに選手をはめ込んでいくタイプがあります。
「選手に合ったチーム作り」と言えば聞こえがいいですが、それぞれのリーグの上位数チームを除いて、ほとんどのチームは指揮官の理想とするサッカーをピッチ上で表現できるほど優秀な人材を用意することができないので、たいていはこちらの「個人の特徴に合わせた」チーム作りを強いられることになります。
ここで気をつけなくてはいけないのは、何となく道徳的に響きのいい「選手の特徴を活かす」プレーモデルの構築が、選手の弱点を放置するプレーモデル作りになっていないかこまめに精査しなくてはいけないということです。
以前の記事や書籍でも何度か申し上げているとおり戦術には個人スキルの向上を促す要素がありますし、なくてはいけません。
大げさに言えば図1のような基本システムを用いて
「うちのクラブのこの年代カテゴリーではあえて団子サッカーをやらせることで密集地でのキープ力や瞬時の判断力を鍛える」
とするのも考え方としては存在します。
図1
また、反対に図2のようにパスの排出口を遠いところばかりに設定するシステムで、ロングフィードとそれを収めるスキル向上、キック&ランやパワーフットボールの癖付けを図っているチームもあります。
図2
一つの要素に偏ったシステムやプレーモデルの設定とそれを軸にした指導は、そのチームでしか通用しない選手を育ててしまう危険性をはらんでいるので、私自身は好んで選んだりはませんが、ここでは「個人の特徴を活かす」チーム作りが必ずしも正義ではないということだけ理解してください。
とはいえ、先ほども述べたようにほとんどのチームにとっては人(選手の特徴)を無視して指揮官の理想のプレーモデルを先に作ることはできません。
ここから海外のいくつかのクラブの例も参考にしながら、個人の特徴と戦術のマッチングについて説明していきますが、特に育成世代の指導者は、選手の弱点を隠すことがその目的ではないということだけ留意してください。
図3
図3はビルドアップ時においての非常にオーソドックスな形を表しています。
現代のサッカー界においてフォーメーションを数字の列で表すのは時にナンセンスに、時に難しく感じられますが、ここでは便器上フォーカスする攻撃チームが4-2-1-3、相手チームが4-4-2とします。
ポイントは攻撃チームが偶数バック、ワイド左右2枚ずつ、センターの選手が1列目で張るのは多くても1枚まで、をビルドアップの輪郭としているところなので、フォーメーション自体は4-2-3-1でも4-1-4-1でも4-4-2でも他に色々と置換可能です。
この図3ではボールに近い側の右FB(フルバック:サイドバック)を高い位置に上げて反対側の左FBを下げています。
そして空いた右CB(センターバック)-右FB間に右DM(ディフェンシブミッドフィールダー:ボランチ)が入って半身でボールを受けられるように体の角度(と視野)を確保しています。
細かく言うと右FBが上がったから右DMが間に入ったのか、右DMが間に入って右FBを前方に押しやったのか、これも試合を分析しているとどちらが主導権を握っているのか見抜くことができますが、右DM主導でこの動きをしたとしている場合、その右DMが相手チームの守備ブロックの中(図4)ではボールを受けたがらない選手である(ボールを受けるのが苦手な選手である)可能性があります。
図4
逆に言えば自チームのDMがこの枠内でボールを受けてターンすることが苦手な選手なら、このリンクアッププレー(連動プレー)をビルドアップ時の基本フォーマットにしていいわけです。
そもそもDMやCM(センターミッドフィールダー:センターハーフ)と呼ばれる選手の、ビルドアップにおける役割は何でしょうか。
細かく分類すれば色々ありますが、選手の能力を査定評価するスタッツから鑑みてみましょう。