目標達成のツール⑤ -自己分析- (全9回)

 

 

中期計画表にはただ単に期限付きタスクを羅列するだけでなく、週ごとの時系列にすべきことを整理します。

さらにそれを一日単位のスケジュール「カレンダー」に落とし込み、そこから一の日誌/日報に落とし込みます。(この「カレンダー」と日誌の2つが最も手帳に近い役割を持ちます)

 

これはサッカーノートとはまた異なります。

 

日誌/日報の書き方も詳細に触れると長くなるのでここでは省略しますが、その日の予定を前日までに30分単位以下の時系列で書き終え、当日、実際どのように時間を使ったかを横に並ぶように記録します。

いわゆるタイムログです。

 

前回までの記事でやるべきタスクの抽出は終わっています。

習慣化を試みるものもあれば決められた期限までに終わらせるものもありますが、これらタスク(行動)の内容は言い換えれば努力の内容、中身になります。

 

それでは努力の量は(もう少し細かく言えば努力量の目標は)どのように設定したらいいでしょう。

 

この努力量の設定は多ければ多いほどいいというものではありません。

一方、自分の能力に見合った量、もしくはそれより少し多い量が適切かと問われれば必ずしもそうだとも言いきれません。

 

営業職に就いている人、あるいはその経験がある人には以下のどちらかに、あるいはどちらにも覚えがあるかと思いますが、ひと月の営業目標設定を自分の能力より極端に上に設定している会社もあれば、自分の能力とちょうど同じくらいかちょっとだけ上に設定している会社もあります。

 

これらはどちらも一長一短で、極端に高い目標設定は非現実的に感じてしまってスタートからやる気が出なくなってしまうことが多い一方、人によっては抑えていたリミッターが外れてブレイクスルーを起こせるなんてこともあります。

 

自分の限界値を過去のデータのみで算段してしまっているなどのせいで、自分の限界値を無意識化で抑え込んでいる人には向いているかもしれません。

 

自分の能力に見合った(あるいはちょっと上の)目標設定だとセルフモチベーティングはしやすいですが、早めに目標数値に達成したときに、人によってはそれ以降の努力を怠ることに繋がったり、何といっても無意識化で自分の可能性を抑えかねないのでブレイクスルーが起こりづらいといった難点があります。

 

これは後述する「よくできた日」と「できなかった日」の原因追及のしかたと同じですが、この二つ(極端に高い目標設定と自分の能力に近い目標設定)のどちらが自分に向いているのかは、データを取って比較検証をしなくてはいけません。

 

前回までの記事で伝えた「他人の成功例を参考にするのは良いが真似は良くない」というアドバイスが直接関わるのがこの部分のところです。

体系化されていて実績を上げていて権威的なものの方が安心できるし使い勝手もいいし楽なのも分かりますが、最終的なゴールはそのツールを使いこなすことではなくあなたの「目標を達成すること」です。

 

そのためには他人との比較や他人の真似ではなく、自分の良かった短期実績(結果)を悪かった方と比較し、上手くいった時の、あるいは上手くいく前の状態や行動を“真似”する必要があります。

 

自己の検証と改善と行動を何度も繰り返すことが必須であり、そしてそれらができるだけ短いサイクルと回数で済むように記録を続ける(日誌/日報を書き続ける)ことが重要だということです。

 

ちなみに「スランプ」という言葉を使うほとんどの選手がこの自己検証ができていません。

検証ができていないので改善案も出ないし行動にも移せません。

やみくもに自主練の時間を増やして「下手が固まっていく」だけです。

 

そしてその「スランプ」が本来の実力である可能性(実際ほとんどの選手はこれ)には目をつむって「たまたまの絶好調」の方を「本来の自分」という基準設定にしてしまいます。

こうなってしまうと非効率な成長サイクルに陥ります。

 

彼らの言う「本来の自分」をたまにしか出せない選手より、彼らの言う「本来の自分」(つまり「たまたまの絶好調」)よりは少し劣るが彼らの「スランプ」(つまり高い確率での本来の実力)よりは優秀な状態を常に保ってくれる選手を我々指導者は試合で使いたくなります。

 

社会人も同じでしょう。

たまにしか大当たりを出さずに普段はハズレばかりの社員よりは、中当たりをコンスタントに出す社員に仕事を任せたいものです。

 

私は指導者という職業柄、選手から色々な質問を受けますが、既に終えた話を聞き返されたときはもう一度同じ話をしてあげることにしています。

 

本人が集中して聞いていなかったせいで理解できていない場合も含めて、話し手の私の伝え方に問題ありと考えるからです。

 

がしかし

「コーチ、俺、どうしたら試合に出られますか?」

というアピール込みのものから

「どうプレーしたらいいですか?」

というさらに抽象的で自分のプレースタイルそのものに迷いが出ているときなどは決まって

「わからない」

と答えるようにしています。

 

これはチームで共有している戦術の応用などを尋ねてきたときも同じです。

 

今はどうか知りませんが20年近く前に通ったJFAの指導者ライセンスコースでも、選手への質問の大切さを説いていました。

が、ヨーロッパのいくつかの国では指導者が戦い方を全て決めているのに、日本の指導者は選手に質問を投げかけることが多い、という指摘をよく聞きます。

 

この指摘は主にネガティブなものですが、私自身がいくつかの国で指導してきて思うことは「さすがは日本サッカー協会」ということです。

日本人には日本人に合った(細かく言うと、弱点を補う働きかけをする)指導が必要です。

 

話を戻しましょう。

 

個人的なことからグループ、チーム戦術に関することまで「わからない」と答えた後に

「わからないからショウタ(仮名)が考えてきて後で俺に教えて」

と言います。

 

そして数分後から、質問の内容によっては数日後に彼らは答えを持ってやってきます。

一通り話を聞いた後、そこでもまた

「それで合ってるか俺じゃよくわからないから他のチームメイト最低3人に聞いてきてくれる?」

とお願いします。

 

それでまた私のところに戻ってきたときにはたいていスッキリとした顔をしていて

「この前話した方法でOKだと思いました。みんなもそう言ってました」

「おう、よかったじゃん。まだ質問ある」

「大丈夫です。ありがとうございました」

と、日本の律儀な高校生、大学生はたいていこうなります。

 

戦術の話が大きく非効率なものに逸れていきそうなときはさすがに「待った」をかけますが、日本の教育風土における指導者と選手の関係は上下になりやすく、ゆえに指導者のアドバイスを選手は「参考」としてではなく「正解」として「真似」しがちになるので、そうならないためにも個人的なアドバイスに関してはこういった気配りを私は大事にしています。

 

ちなみにその大きく逸れていきそうに見える戦術に関しても、選手が生み出した歴史的なシステムを私の堅い頭がないがしろにしてしまったという苦い記憶もあるので、今は慎重に精査するようにしています。(また別の機会に書きます)

 

このように局所的な疑問から努力の質と量の決め方まで基本的には個人での解決、決定が望ましいと思いますが、とはいえ目標達成に関する「免疫」がない選手、生徒、部下にはアドバイスもいくつか必要になってくるでしょう。

 

「免疫がない」とは、論理的思考で物事を深掘りすることに慣れていないという意味で、つまり「何故サボらずにタスクをこなせる日とそうでない日があるんだろう」という類の自問とその改善を放棄しがち、ということです。

そしてこれは「作業型」プレーヤーに多い傾向です。

 

アドバイスの一例としては、例えば上記の「サボらずによくできた日」と「できなかった日」の比較検証をするときに、朝起きる時間はもちろんのこと、起き方そのものも人によっては考える必要がある、等です。

 

目覚まし時計で起きたのか、保険として目覚ましはかけてはいるけれどアラームが鳴る前に起きたか、目覚ましだけどアラームが鳴るものか光で起こすタイプのものか、体の寝返りを感知して眠りが浅いときに起こしてくれるタイプのものかなど、細かく検証することができます。

 

さらにさかのぼれば、寝るときに電磁波を出すものを遠ざけたかどうか、寝る前はどうだったか、就寝何時間前までブルーライトを浴びる、カフェインを摂取するなどの睡眠の障害になりそうな条件下にいたか。

 

食事は何をいつどれくらい摂取したか。

入浴はしたか、シャワーだけで済ませたか。

運動はどれくらいしたか、なども挙げられます。

 

これらをもって「上手くいったとき(とその前)」と「上手くいかなかったとき(とその前)」の比較検証をすると、「“このルーティーン”をさぼるとその次のルーティーンもさぼりやすい」「一日の最初のタスクにこれを持ってくるその後の日課も上手くいきやすい/その後が上手くいかない」といった傾向が見えてきます。

 

脳のエンジンのかけ方、整理のし方やタスクの関連付けのし方、作業場所と作業そのものの関連付けのし方など細かい技術的なアプローチも私の場合もちろん役に立っていますが、やはり最も大切なのは「記録を取り」、「振り返り(検証をし)」、「傾向を知る(自分を知る)」ことになります。

 

(つづく)

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