プレッシングとリトリート(後退)の取り扱い方⑥(全7回)

 

 

というわけで

「(プレーエリアを)変えさせないようにプレスをかける」

がプランAである一方、

「変えられてしまったらスライド&リトリート」

というプランBも当たり前のように用意しておくのが一般的に用いられているチームの約束事になります。(図22)

しかしながら、奪われた瞬間のプレッシングが無いというか少ないというか「奪えなかった」と判断するタイミングが、つまりスライド&リトリートの開始が少し早いんじゃないか、と感じるチームがあります。

 

図22

 

これが前述した「ポゼッションフットボールをしておきながら奪われた瞬間のプレッシングよりリトリートに重きを置いている(ように見える)サッカーを体現しているチーム」のことであり、それを最初に感じたのは、現(2020年9月現在)日本代表監督の森保さんがサンフレッチェの監督をしていたときの試合を観たときです。

 

「ボールを失ったらすぐプレス」ではなく「ボールを失ったらすぐリトリート」と感じられた、何とも相性の良くなさそうなゲームモデルに私は当時少なからず違和感を覚えました。

 

しかしこのポゼッションとプレッシングの切り離しにも見えた戦術の誕生の背景には、守備力がヨーロッパ人や南米人に比べて極端に低い日本人ならではの事情があったのではないでしょうか。

 

これを読んでくださっているあなたもなかなかのサッカーファンかとはお察ししますが、DAZNあたりでリーガやプレミアのプレーに目が慣れた後にJリーグの試合を観ると、当たり前のようにMFのゲートにボールを通されている現状に違和感を持つはずです。
(それが危機的状況に陥らない攻撃側のスキル不足も相互に関係しているので根が深い問題ではありますが。)

 

一方、森保サッカーに関して推測できたポジティブな背景としては、押し込まれた状態からでもボールを奪ったらきちんとパスをつないで相手のプレスをかわすことができる、サンフレッチェの選手の技術の高さがあったように思えます。

 

事実、押し込まれた深い位置からでのパスワークに関しては、Jの試合のみならず身体能力に優れているとされているアフリカのチーム相手にクラブワールドカップで戦ったときもきちんと披露できていました。

 

「前監督の戦術をそのまま引き継いだだけ」という不当な評価を受けることの多い森保監督ではありますが、この部分は新たに独自に取り入れた戦術のように感じました。

 

私は2018-2019と2019-2020シーズンのラ・リーガ2部の試合を運よく現地で数試合観戦することができましたが、あの頃の広島と似たような試合運びをしているチームに出会うことがよくあり(この程度の「プレス/リトリート」のバランスは、私が不勉強なだけで以前から他のチームも行っていた可能性大ですが)、そのたびに勝手に「あ、広島の真似してる」と森保さんの優秀さに感心していたという思い出があります。(とはいえ日本代表の戦い方に関しては個人的には評価がまだまだ難しいところがあります。協会との契約の内容もよく知らないので)

 

話を戻します。

まとめると、個の守備能力が高ければ回収の準備(いい距離間)は必要ありません。同様に個の攻撃能力が高ければ攻撃時のサポートが要りません。

 

強者のサッカーのように見えるポゼッションフットボールですが、ボールを奪ってからすぐに中長距離のパスを前線で受けて、それを相手最終ラインの幅以上相手ワイドプレーヤーの幅未満のレーンにボールを散らし、トップスピードに近い中で最短距離、最短時間でフィニッシュまでを遂行しなくてはいけないカウンターサッカーも高い技術と身体能力を求められます。

(このカウンターの解説に関してもまた別の機会に)

 

サンフレッチェスタイルは別として、セットで考えられやすいプレッシングも、リトリートしてゴール前の水際で相手の攻撃を跳ね返す強さは多く求められなくとも、プレスとスクリーン、場合によっては最終ラインでの同数の戦い、という高い守備スキルを求められます。

 

つまりフォーメーションはもちろんのこと、システム一つをとってもその背景、事情には真逆のものがある可能性があるということです。

ただ単にあなたのチームの選手の攻撃スキルが、あるいは守備スキルが相手チームより劣っているからと言って、このフォーメーションでこのシステム、というふうに決められないということです。

その攻撃/守備スキルにしたってこれまで述べてきたようにどの分野のスキルなのかの精査が必要だということです。

 

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