いわゆるゾーンディフェンスにおける「ゾーン」だとか守備ブロックの「ブロック内」だとか、人(担当マークの選手)とは別に「ここに侵入してきたら誰であろうとプレスをかける」というエリアがあります。
このゾーンは4-4-2のDF-MFユニット間だとわかりやすく3つの四角形ができますが、今回の場合すでにMFが一人(右WM)ディフェンスラインまで下がっている状態なので図21のように三角形と四角形が2つずつできるイメージです。
図21
そして左FBと右WMを除く全ての選手の担当するゾーンは2つずつあり、自分の見えている側のゾーンにボールが入ったら相手が誰であろうとケアをしに行くのと同時に、見えづらいゾーンにボールを通させないようにゲートをケアする必要がります。
今回の状況下でのゲートは同ユニット内の隣の選手間(例:左CM-右CM間など)ではなく一つ前/後ろの選手との間(例:左CM-右CB間など)になります。
文章だと少し分かりづらいので、図22の左CBが右AMに内側を振り向かせてしまった状況を例に解説しましょう。
図22
振り向かせてしまった左CBの対応の仕方やその左CBに合わせてラインを上げる他の選手たち、さらには一つ次のゾーンのケアのためにDF-MF間を潰しにダウンする右CMなど、語れるポイントは色々あるのですが、ここでは左CMのプレーにフォーカスします。
まず自分の「見えているゾーン」に侵入してきた右AMからボールを奪うためにプレスをかけます。
と同時に「見えづらいゾーン」にいるCFにパスを出されないようにラインを下げてユニット間(DF-MF間)を狭くします。
とはいえ最初のタスク、右AMへのアプローチが遂行されればユニット間は自動的に狭くなります。
裏の(特に左CBとの間にボールを通させないように)ケアやシュートブロックも考慮しなくてはいけない同ゾーンの共闘者、右CBに比べたらこのタスクはそれほど複雑ではありません。
そしてこのプレーが、当たり前ですがゾーンの中で行われている以上、MFたちが元々見ていた(担当していた)選手がゾーンの外にいた場合(ほとんどの場合ですが)、その選手が視界から外れやすくなります。
そしてこれはもちろんこのシーンに特有のタスクと現象ではなく「ゾーンディフェンス」そのものはおろか(特にDF-MF間の)ディフェンス全体におけるタスクと、それ故に起こる、ゴールから遠い側からボールホルダーにアプローチする選手たち(この場合MFたち)の、そうならざるを得ない「見えている方向」(及び見えづらい方向)になります。
これは縦と横が変わっただけで、CBやDMがセンターでボールを持った時のビルドアップ対応と理屈は同じです。
浮き球だろうがグラウンダーだろうがMFの背後、ディフェンスラインの前にボールを通されたらMFはそこでボールを奪うために元の担当選手から目を離して後ろを向かざるを得ません。
もちろん体の角度に対して守るべきゴールの方向が異なるので、ビルドアップ時の、縦にユニット内ゲートにボールを通された(運ばれた)ときと、フランク(ワイドエリア)から横にユニット間ゲートにボールを通された(運ばれた)ときでは完全なイコールにはなりませんが。
以上の理屈がわかったところで右WM、右FB、右AM対左FB、左WM、左CBの2.5v2に話を戻しましょう。守備側が形成し担当しているゾーンは最初の三角形です。
右AMへのフィードが自分の頭を超えた時点でボール方向を向いている左FBや左WMが見えづらくなるパスコースが3つ出来上がります。(図23)
図23
ボールを受けた右AMには、その2選手(左FBと左WM)をよりボールウォッチャーにすべく(引きつけるべく)1、2秒でもボールをキープするスキルを当然求めたいところで、ボールホルダーの右AMに向かって左FBと左WMの視線や意識だけでなく体の移動までが起これば、彼らが移動した分そのフロー(軌道)とパスのフローに角度的な差及び右WMや右FBへの距離が生まれるので、彼らが右AMからパスを受けた後のプレーが楽になります。
とはいえ①にボールを出した後の右WMの対処はそのまま左FBがすることになり、センタリングは上げられるものの幅はある(ゴールから遠い)状態なので、この位置からのクロスボールを良しとしないチームにとってはベストな選択ではありません。(図24)
図24
また②を選択した場合、左WMが右AMへアプローチしていたら右FBが上げるクロスボールはその左WMに引っかかる可能性が高くなります。
代わりに右WMが上げる場合はバックフットになるのでこの選手が右利きだった場合そのクロスボールの精度が落ちるのはもちろんのこと、左利きだったとしてもバックフットである以上ボールの配給先(CF、左WM)のミートやレシーブのスキルが余計に求められます。(図25)
図25
③にボールを出した場合、ここは次のゾーンの担当、左CMがプレスに来ます。よくても配給先に選べるのはCFまででその配給もバックフットになる可能性が高く、CFにとっては角度的には②よりも難しい状況です。(図26)
図26
少し大げさにネガティブな条件ばかり付け足しましたが、もちろん①も②も③も状況によっては得点につながるボールをゴール前に送れる可能性も十分にあります。
念のため今回挙げたネガティブコンディションを全て考慮して、せっかく右AMがきちんとボールを収めたのにその後のペネトレーションのパスが受け手にとって厳しいものになりそう、あるいはそれを回避するせいでパスの選択がポゼッションのためのパスなってしまいそう、しかしできればそれをも回避して次の一手でチャンスメイクしたい、というときの複数人が関わるリンクアッププレーを一つだけ紹介しておきましょう。