思いこみの使い方

 

 

 

現代の日本社会の風潮として「ゆとり世代は使えない」といったネガティブな評価がある一方、その評価を下す側の世代に対しても似たような評価がゆとり世代から下されています。

 

今回は世代間差別の話ではありません。

私自身はゆとり世代の人たちは我々氷河期世代や少し上のバブル世代より人間的に魅力的な人間が多いと思っています。

別に媚びているわけではありません。「大人だなあ」と思う人間が多いということです。

 

このようにたいていはどのアイディアにもそのアイディアに真っ向から反対するアイディアが存在します。

今回話したいのはこれです。

 

これはスポーツ科学や医学、食物の栄養に関することも例外ではありません。

我々がずっと思っていたことをよくぞ言ってくれた

「コーンフレークの五角形はメーカーに都合のいいものしか表記されていない」

というミルクボーイの漫才のあれと似ています。

 

商売と関係なく物事が進む研究分野なら「都合」は関係ないかもしれませんが、所詮は科学でさえ「今現在そう思われていること」にすぎません。

 

スポーツのトレーニングやストレッチ、睡眠、食事のとり方もしかりです。

私は現役時代やせ型体質で54、55キロしか体重がありませんでしたが、ベンチプレスを100キロも上げるという超無駄なことをしていました。

 

あと1,2キロ体重を下げるか重量を上げるかすると全日本のウェイトリフティング大会の出場資格を得られるくらいのレベルでした。

当たり前ですが、こんなバカげたことを現在教え子にさせてはいません。

が、この今の私の常識もまた覆る可能性が0ではありません。

 

こんな「今現在の正解にしか過ぎない」情報社会の中で、どの考えを言葉にして選手(学習者、指導対象者)に伝えるかはとても繊細な問題になります。

 

「不登校」という言葉が無かった時代は今ほど不登校児がいなかった、という話を私は非常に興味深いと思っています。

言葉が先にできて(出て)、その言葉が結果に導く危険性も可能性もここでは示唆されています。

 

そういえば「花粉症」という言葉がまだなく、その因果も解明されていなかった時代は今ほど「春風邪」をひいている人が多くなかったように感じます。

いや逆に私がこの「言葉が結果に導く」という情報(言葉)に操作されているだけでしょうか。

 

いずれにしても特に指導者や教育者は、指導の対象者が若いほど指導者/教育者の与えた情報(言葉)を正しいと思いがちなので注意が必要です。

以前の記事で書いた計画表の作り方のように「自分で答えを見つけるのがベストだが難易度が高いので具体例が必要な案件」のような場合のアドバイスには、「自分の場合は」や「過去にいた選手の例では」といった言葉を強調する必要があります。

「どれとは言わないけどこの中にお勧めできないのもあるからな」

と前置きしてから具体例を提示する気配りなども時には必要です。

 

私自身の大反省でもあるのですが「こんなだらしない練習してたらベスト16なんか絶対無理だぞ」と、ライバルたちは今頃もっと必死に練習しているぞ、だから我々ももっときちんと練習しような、の意味を込めて選手たちを説教したことがありますが、その年のトーナメント戦での最高成績が本当にベスト32で終わってしまったという経験があります。

 

「みんなコーチのことすごいって言っています。戦術分析だけでなく相手の後半の戦術がどのように変わるかの予測も当たるし」

という、他のコーチに対する不満からの流れのコメントでしたが、そのシーズンの半ばごろ選手の一人にそう言われたことがあります。

 

まんざらでもない気分で聞いていたところ、その選手が何の悪気もなく

「あと、ベスト16に行けないっていうのも今のところ当たってるし」

と続けたときには何とも申し訳ない気分になりましたが、私の本心としてはその代はベスト16に値する能力を備えていると思っていました。

しかし結局最後の大会もベスト32で敗退してしまいます。

 

また、その次のシーズンのことですが、今度はハッパをかける意味ではなく冷静に分析したうえでこう言ったこともあります。

「正直言うと昨年に比べると今年は少し見劣りする。今年のキミらを正当に評価すると、このリーグのちょうど真ん中くらいの(10チーム中)5位か6位くらいが妥当だと思う」

だから相当な努力をしないとリーグ昇格は難しいぞ、という言葉を付け加えてのセリフでした。

 

結果、5位フィニッシュ。

ただしもう一つの目標、トーナメント戦は「絶対に去年より一つ以上多く勝つ」を言い続けた結果、去年よりチームのレベルが低いとされていたのに、そして実際のリーグ戦の成績も去年より下がってしまったのに、こちらは叶えることができました。

 

以前の記事で「私には念力がある」という冗談話を披露しましたが、若くて素直な選手を持つ指導者には全員、念力のような力が受け手の都合で備わってしまうのかもしれません。

 

我々指導者の言葉が選手の無意識の領域に働きかけてしまっているということです。

 

そういえば「不登校」や「花粉症」とは反対の、もう一つ好きな話がありました。

プロの栄養士が手間暇かけて作る食事を「どうせ痩せないだろう」と思いながら食べるより、チョコレートを「やった!栄養満点のダイエット食だ!」と思いながら食べる方が実際に痩せるという「思い込みダイエット」の話です。

 

私は脳に関する話が好きでそれ関連の本を読み漁っていますが、これこそ解釈がころころ変わる、解明余地が宇宙と同じくらい膨大にある分野の話ですが、今のところ私はこの「思い込み」には効果があるときっちり“思い込み”、そして選手にもそう思い込ませようとしています。

 

「周りが全員『君ならできる』と思っているのにキミ自身が『できない』と思い込んでいる場合より、その反対の、周りは『おまえじゃ無理だ』と思っているのにキミ自身が『絶対できる』と思いこんでいる場合の方が、圧倒的に成功率は高いよ」

と、例えばプロサッカー選手になることを目標にしている選手などに、こんな感じで伝えています。

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