戦術の説明に関する書籍で精神論を語るのは野暮ですが、先に申した通り戦術は組織育成のための一手段にしかすぎず、それそのものの知識の取得や理解はゴールではありません。
同じランクのUEFAライセンスでも取得した国や年度によってその難易度は異なると言われていますが、私の受講年はちょうどコース運営がカウンティーFA(地域サッカー協会)からThe FA(イングランドサッカー協会)へと変更、中央集権化された直後で、難易度がグッと上がった年でした。
合格率も1割程度で、中には追試を受け続けている「5浪生」なる方もいました。
イングランドは他の国に比べてライセンス取得はおろか受講それ自体も難しいと、条件的、料金的に受講生思いのスペインやドイツを引き合いにして、しばしば批判されていたくらいです。
今ではその難易度が更に上がっているかもしれません。
その受講中、ライセンス取得を熱望する我々を前に、講師たちが常に口にし続けていたことがあります。
「資格取得が目的ではない。指導を続ける以上、ライセンスを取得しても、それこそプロや代表の監督になったとしても、常に“Still on journey”だ」
常に道半ばであり、ゴールは永遠にこない。
指導しているチームの公式戦などで、戦術、戦略がバッチリはまって良い結果に結びついたときなどつい慢心してしまいがちですが、以来私はこの言葉を思い出して自分を戒めるようにしています。
FAから学んだ言葉と言えばもう一つ。
こちらはイングランドの指導者なら誰もが知っている有名な言葉で、元はある国の政治家が言ったセリフです。
私の場合は、自身に向けてだけではなく選手にも使っている言葉でもあります。
「準備の失敗は、失敗の準備である」
本書はあくまで「Foundation」なので本題は次巻以降になりますが、ひとまずこの言葉をお伝えして、皆様の指導者生活の日々の準備に本書が役立つことを願いたいと思います。
※「専門家のサッカー解説書 Foundation」より抜粋