目標達成のツール⑨ -人の性格- (全9回)

 

 

目標達成のツール -書く理由-
目標達成のツール -目標設定のしかた-
目標達成のツール -期限とルート-
目標達成のツール -行動の仕分け-
目標達成のツール -自己分析-
目標達成のツール -セルフモチベーティング-
目標達成のツール -自己肯定感と行動の罠-
目標達成のツール -先回りの力-

 

私は今年で指導者生活20年目を迎えます。

指導対象の選手の年齢にもよりますが、今まで訪れた多くの現場で同僚たちに語られてきたものに

「選手の性格を変えることが一番難しい」

というものがあります。

技術よりも運動神経よりも身体能力よりも性格が一番変わりづらいということです。

 

これは私自身も大きく賛成しています。

 

名門アヤックスでは選手の能力査定基準に

Technique(技術)

Insight(洞察力)

Personality(性格)

Speed(速さ)

というものを設けており、これは下に行けば行くほどより変えづらくなると捉えられています。

 

私が今まで踏んだ現場と異なりスピードが一番にきてはいますが、それでも二番目に位置している「性格」を変えることの難しさを物語ってもいます。

 

とはいえ変わる選手もいます。

指導者、教育者の力不足が原因で本人にとっても組織にとってもネガティブな方向へ選手が変わってしまう場面は容易に想像がつきますが、ポジティブな方向へ、大きなブレイクスルーのように変貌を遂げる選手もいます。

 

心を動かされるインパクトの強い事件が起きたときなど、何か大きなきっかけが本人にあったときに、このブレイクスルーは起こりやすいと一般的には言われています。

 

しかしこれは言ってみれば偶然待ちのようなものです。

それでは本当に日々の働きかけから、あるいは意図した戦略的アプローチで、選手の性格を本人が望むようなものに変える方法は無いのでしょうか。

 

キッズやジュニア世代のゴールキーパーコーチはGK初心者にいきなり「ダイブしろ」とは言いません。

地面への恐怖心をなくすために初めはお尻を地面につけた状態から脇を締めて横に倒れる、といったことからスタートします。

慣れてきたら次は膝立ちから倒れる、次に立った状態から脛、膝、腿、上半身の側面の順で接地するように倒れる反復練習をします。

 

これができて初めてダイブです。

 

つまり最終的な結果目標「ダイブ」の前に地面に慣れさせる手順がそこにはあります。

「慣れる」という字は「習慣」の「慣」という字でもあります。

 

これに比べて多くのフィールドプレーヤーのコーチは、スライディングタックル一つとっても放任主義です。

 

言わなくてもできる選手がいるせいでそれのコーチングの重要性に気づきづらいのかもしれません。

あるいは本人の現役時代、特に誰から教わったわけでもなくきちんとできていたからかもしれません。

 

放任どころか、怪我への不安視からスライディングタックルをすることを良しとしない指導者も一定の割合でいます。

日本の場合、プロの下部組織などにもあります。

 

がしかし、ルール上スライディングが認められている以上、そして実際の本番(公式戦)でそのプレーが求められる場面が訪れる以上、あるべき姿としては「できるだけ練習ではスライディングタックルをさせない」ではなく「怪我に繋がりにくい上手なスライディングタックルを準備(練習)しておく」です。

それも左右のイン、アウト、4種類全てのスライディングからそのスライドの勢いを利用して立つところまでの練習です。

 

もちろんそこにはそれ以前の「地面に対する恐怖心をなくす」ことも含まれています。

 

少し話が膨らみすぎましたが、私が言いたかったのは「恐怖心をなくす」という心の状態のコントロールに、ゴールキーパーコーチたちは体系化した手順を踏んで選手たちにアプローチしているということです。

 

これと同じで「性格を変える」アプローチはないだろうか、と考えたのが「書く」という作業です。

 

ここで今一度確認しておきますが、長期計画表から日毎の日報/日誌まで、それらを書く(書き続ける)理由は、言わずもがな、目標を達成するためです。

我々「書く」タイプの人間は目標達成するために効果的な行動を選定し、それをする(主に「し続ける」)働きかけのために「書く」ということを選んでいるのです。

 

これは「どういった練習メニューで選手を成長させよう」といった水際のアプローチではなく、学習効率を上げるために指導を受ける人間個体そのものを目標達成しやすい個体に変えてしまおうという試みです。

見た目は同じでも中身を変えてしまおうということです。

字面だけ見るとSF映画に出てきそうな人格コントロールの話みたいで気持ち悪いですが、あくまでそれは本人が望んでいる性格に変える、という上での話です。

 

「やり続けていることを書く」あるいは「やっていることを書き続ける」ことは言ってみればただの習慣です。

 

つまり「絶対に目標達成するぞ!」という強い意志や精神力ではなく、習慣によって「目標を達成しやすい性格/体質の人」になろうとしているわけです。

以前の記事でも触れた、心技体の土台にまず習慣ありとしているところにもつながります。

 

サッカーの現場だけでなく企業の人事でもよく言われているものに

「時間と金をかけて(普通の)人材を育成するより、時間と金をかけて優秀な人材を発掘、採用した方が最終的には金銭的にも時間的にも効率がいい」

というのがあります。

 

現役の選手/会社員、それもほとんどのエリートというわけでもない選手/会社員からしたら腹立たしい言葉ではありますが、これはある意味合いにおいて正解です。

 

ですが、ほとんどのスポーツクラブにとって自チームに招き入れたい選手というのは、自チームよりレベルの高いチームに入団したがりますから、よほどのことがない限り突出したレベルの人材が入団することはなく、たいていは自チームの身の丈に合った選手たちが入団します。

 

これらの選手の成長効率を上げるには、つまり他のチームの選手たちと同じ、あるいはより少ない学習量で多くの成長を達成するためには、やはり選手一人一人を「成長体質」「改善体質」に変える働きかけが必要です。

 

世間的にいくら「選手の性格を変えるのは難しい」と言われていようと、特に育成世代の指導者たちには愚直にあきらめずにトライしてほしいと思います。

「難しい」は「無理」とは違います。

 

偉そうになってしまいましたがこんなことを言うのは、大きなブレイクスルーとは言えずとも「書く」ことによって変化した選手を何人か私自身が知っているからであります。

 

以前の記事で書いたように、最初のアプローチは「毎日、自分をほめてやりたいことを一つずつ書く」という簡単なものだった選手もいました。

 

入団したてのときは200人近くいる部員の中で一番下のカテゴリーからスタートしたのに、3年生になったときには200人の中のトップ11、開幕スタメンに選ばれた選手もいました。

 

この選手に関しては元々成長体質だったのでしょう。

前回の記事で触れた「ノートを常に持ち歩いて気づいたときにはすぐさまメモを取る」を実践していた選手でした。

 

尊敬できる選手たちに恵まれてきたのは私にとっては幸運ですが、これをただの幸運にしないで再現可能な形での指導を、私自身も努力したいところであります。

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